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2009-03-17 08:00
首相、北ミサイル“迎撃”の決断切迫
杉浦正章
政治
「手の内をさらしたり、向こうに見せるようなことはしません」と首相・麻生太郎が北朝鮮のミサイル迎撃問題について16日発言した。とすると何か「手の内」があることを証明したことになるが、それは何か。自衛隊法上可能なことを分析すれば、我が国領土やその周辺に飛来するミサイルに対する迎撃の政治決断をあらかじめしておくということではないか。自衛隊が迎撃するためにも、準備するためにも、それが不可欠だ。場合によっては、我が国近海に落ちるブースターを迎撃することを視野に入れて、決断するかもしれない。最近首相および閣僚の発言は、北に対するけん制の域を超えているようである。首相は「人工衛星と言おうと、何と言おうと、明らかに国連安全保障理事会決議の違反だ。日本として『左様でございますか』という話とは違う」と看過しない構えをみせている。外相・中曽根弘文も「ミサイルが途中で落下するならば、官房長官が迎撃という言葉を使ったが、そうした対応を取らねばならぬ」と迎撃を明言した。
しかし、迎撃と言っても自衛隊法上の対応は限定される。イージス艦からの迎撃が可能なのは速度が遅いブースト段階と日本に飛来か、落下する場合に限られていると言ってよい。ブースト段階なら、かなりの確率で迎撃可能だ。しかし相手国領内で、しかも戦争状態でもないのに、「人工衛星」と称するミサイルを迎撃することは困難だろう。仮にブースト段階で迎撃すれば、北は「戦争に直結」と解釈して、ノドン・ミサイルを日本に打ち込んでくる可能性がある。日本上空を通過する場合に迎撃する能力は、イージス艦にはない。加えて集団的自衛権の行使にあたるため、憲法解釈上できない。太平洋に着水時に米国が迎撃することも、よほどコースを外れなければあるまい。したがって、ミサイルが日本に飛来するか、落下しなければ、迎撃可能な要素を満たすことが出来ない。自衛隊法82条の2は「我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるとき」に発動可能なのである。
ところが同法も、首相の政治決断無くしては発動できない。同法には「防衛大臣は内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる」と規定されているからだ。要するに首相が決断をしていなければ、自衛隊は迎撃行動に移ることが出来ないのだ。迎撃するためには、2隻のイージス艦を日本海に配備する必要がある。ミサイル発射の時期は、北が4月4日から8日までと通告しており、麻生は早期の決断を迫られていることになる。これまでの閣僚らの発言から推測する限り、我が国の領土および周辺に着弾が予想される場合には迎撃する、と明言しているわけだから、首相も恐らく迎撃の決断をする腹づもりで、閣僚に“前触れ発言”をさせているのだろう。首相が決断すれば、史上初の長距離弾道ミサイルへのミサイル防衛(MD)が稼働し得ることになる。
もっとも、人工衛星と称して日本を攻撃することはまずないだろうから、迎撃を行うケースは2つに絞られる。一つはミサイル制御に失敗して、日本に着弾するケース。もう一つは「周辺」に落下するとみられるブースターの迎撃である。これは防衛省首脳が検討しているといわれる。北の通告では秋田沖130キロを最短とする海域に落下するものと予想されるが、これを迎撃するのである。「ブースター迎撃」の狙いは、(1)北へのけん制効果、(2)航行船舶への配慮、(3)実戦用演習、などが考えられる。国民心理的には「うっぷん晴らし」効果もある。秋田沖130キロは領海外であるが、排他的水域内である。この点自衛隊法82条の2は「海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む」と規定しており、ブースターの迎撃は可能である。北も、ミサイル本体でなくブースターの破壊なら、「戦争と直結」させるようなことはあるまいし、国際的に日本の迎撃能力を示すことになり、周辺ミサイル国へのけん制にもなる。
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