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2009-05-11 07:56
党首討論の勝敗は目に見えている
杉浦正章
政治評論家
久々の党首討論が13日に予定されている。このレースは、民主党代表・小沢一郎が勝てば10万円馬券級の超大穴だが、そうはならない。7対3で首相・麻生太郎が勝つ。なぜなら、党内から辞任要求の合唱が生じている党首に政権構想を語る資格はないからだ。事態は、総選挙を直前としている特殊状況にあり、自らが首相になる立場で討論できて、始めて麻生と対等になり得る。しかし有権者は疑惑の焦点にいる政治家を首相候補と見なすわけにはいかない。何を発言しても説得力が無く、引かれ者の小唄に聞こえるのだ。今回の討論についてマスコミは対立軸が無くて面白くないという判断だが、近ごろの若い政治記者は問題意識がなさ過ぎる。だから政治記事が面白くないのだ。対立軸など大ありだ。
まず両党首とも、政権をかけての最後の勝負となる。この2人の対決はもう見られないだろう。総選挙に敗れれば、いずれかが退任することになるだろうからだ。加えて補正予算案の早期成立問題、政治献金全廃問題、世襲問題、海賊法案の早期成立など、対立軸はいくらでもある。そしてすべてに覆い被さるのは「西松問題」の黒い影だ。興味深いのは、西松問題で捜査の裏を全て掌握している麻生がどう出るかだ。永田町では、検察の捜査はまだ終結しておらず、あっせん利得罪の立件まで視野に入れているという見方が濃厚だ。検察が動けないのは、国会が会期中であることと、総選挙が切迫して、それこそ小沢に対する選挙妨害になりかねない、というジレンマを抱えているからだ。こういう状況を背景にすれば、本来政権の側は、ネズミをもてあそぶ猫のような対応が可能だ。しかし、麻生はそのような戦術には出まい。
恐らく、補正の早期成立、インフルエンザ、外交・安保など当面の政務に専念している姿を前面に出して、小沢の急所である「西松問題」には直接触れないか、触れても軽くジャブを効かせる程度だろう。もっとも、逆に小沢が、自らが発案して党議決定した企業献金の全面禁止を主張すれば、対応は別だ。自民党内の「盗っ人猛々しい」論は多くの国民の共感を得ており、似たような切り返しが可能となる。麻生は「政治家たるもの、私も含めて、自らの襟を正した上で論議すべき問題」位の切り返しで十分だろう。麻生の戦術はおそらく、西松問題では「浮き彫り効果」を狙うだろう。つまり小沢がごうごうたる世論の辞任要求に対して、党首の座にしがみついている姿を浮き彫りにすれば、それで党首討論の目的はほぼ達成できたことになる。となれば、小沢は世襲制限問題で自民党の分裂ぶりをつくかも知れない。
しかし世襲の制限は、自民党の動きを察知して、民主党が先取りしたのが経緯であり、自ら世襲議員でもあることと合わせれば、企業献金禁止と同じで、迫力に欠ける。麻生が「私のように25年経っても世襲か」と言うのも説得力がある。麻生が、小沢をその弱点である安保防衛論議に引き込めれば、有利さはさらに増す。小沢は「軍事戦略的に米国の極東におけるプレゼンスは第7艦隊で十分だ」発言で、初歩的な日米安全保障の構図すら理解していないことを露呈してしまった。小沢の根底にある反米的言動を引き出せれば選挙に有利に働こう。補正のばらまき基調を小沢はつくだろいうが、民主党の22兆円の景気対策は大半が無駄の排除を財源にするという荒唐無稽(むけい)さであり、ばらまきという意味ではどっちもどっちだ。景気悪化を前にして、国会で補正の人質作戦を実行すれば、国民の反発は民主党に向く。
党首討論を鳥瞰図としてみれば、小沢の狙いは、党首としても存在を改めて党内外に認知させようとするところにある。あの驚くべき「自分自身の身の果てるまで、あらゆる障害を乗り越えて使命を達成する」発言が物語るのは、それだ。小沢は党首討論を通じて、なんとか麻生に対する反転攻勢のきっかけを掴もうとするだろう。しかし小沢には、自分が置かれた状況が見えていない。党首討論を評価するのはマスコミであり、そのマスコミが「小沢礼賛」に戻ることはないからだ。もちろんマスコミは、麻生も「礼賛」することはないだろうが、小沢に対しては一致して辞任要求しており、発言の内容にかかわらず、どっちが駄目かでは、小沢が駄目と結論づけるだろう。ただ一つの超大穴は、小沢が討論の場で自ら辞任表明して麻生政権の非を訴えることだ。これができれば一挙に説得力が逆転し「民主党政権」も夢ではなくなる。しかし党内に諮りもせずに、相手の党首に対して辞任を表明するような形となり、まさかやるまい。
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