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2009-06-01 10:03
いまこそ問われる日中の「戦略的互恵」関係
鍋嶋 敬三
評論家
北朝鮮の2回目の核実験に対する国連安全保障理事会の非難決議案の行方は、北朝鮮に最も影響力があるとされる中国の出方にかかっているが、制裁強化を狙う日米に対して中国は慎重な姿勢に終始してきた。オバマ米大統領は強力な決議を迅速に採択する必要を強調したが、中国とも協調する姿勢を崩していない。日本は実効ある決議を採択するよう国際世論を背景に中国を強力に説得すべきである。麻生太郎首相は5月25日の核実験直後、「この実験は、安保理決議1718号に明確に違反し、核拡散防止条約(NPT)に対する重大な挑戦であり、日朝平壌宣言や6カ国協議の共同声明にも違反する」という北朝鮮非難の声明を発表した。
米国はじめ韓国、オーストラリア、英国、ロシアの首脳と相次いで電話会談し、強い安保理決議に向けて手を打った。ブラジルの大統領にも電話した首相だが、なぜか中国の首脳と会談したという報告は、政府が公表している限り見当たらない(5月31日現在)。本当は真っ先に電話で協議してしかるべき相手である。北朝鮮の核実験に対して中国も、本音では日米韓の強い主張も理解しているところだろう。しかし、金正日体制を追い詰めることによって起きる北朝鮮の「暴発」と地域情勢の混乱を恐れる中国は、制裁強化案には煮え切らない態度を示してきた。日本側から電話会談を申し入れても受け付けなかったことも考えられる。日中の外相レベルでも、ハノイでのアジア欧州会議(ASEM)では短時間の「立ち話」に終わった。
日中関係は「戦略的互恵関係の包括的推進」で合意して、首脳間の相互訪問も活発に行われている。2008年は相互訪問が5回(首脳会談は7回)実現、今年は既に4回の会談が開かれた。「戦略的互恵関係」で基本となるテーマは、地域の安全と平和の維持である。北朝鮮のミサイルと核は最大で緊急の問題であり、首脳間で迅速に率直な意見交換が行われないようでは、日中「共益」(麻生首相)もむなしく響く。4月以降、北朝鮮は弾道ミサイル発射、6カ国協議脱退、再度の核実験と、短期間に強硬路線を突っ走っている。長距離ミサイルの再発射をうかがわせる動きも伝えられる。
昨年8月、金総書記が脳卒中で倒れたとされて以後、集団指導体制に移行し、軍部の影響力が一段と強まっている、と米国では観測されている。軍事的強硬策が目指すところが、対米直接協議による米朝関係正常化であるとすれば、6カ国協議は北朝鮮の非核化の目的を達せずに終わるだろう。それは議長国の中国にとって受け入れられない選択肢だろう。これまで米中とも北朝鮮には「甘い」交渉態度をとって来たことで、北朝鮮の「体制生き残り」戦略に乗せられてきた。今は6カ国協議が将来の北東アジア安全保障のシステムとして生き残れるかどうかの瀬戸際である。実効ある強力な安保理決議採択に中国の勇気ある決断を望みたい。
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