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2009-09-09 07:36
ポピュリズムに走る鳩山の「暴走第1号」
杉浦正章
政治評論家
首相・細川護煕が「国民福祉税」を打ち出したときは、「あっ、これでつぶれる」と直感したものだが、鳩山由起夫の「CO2の25%削減」も、直後は全く同じ感覚に襲われた。しかし、鳩山は、まだ首相に就任していなかった。恐らく鳩山は、細川などのポピュリズム型リーダーや芸能人らがとらわれる「人気至上主義症候群」に陥ったに違いない。人気を維持するために、次から次に新しい趣向を打ち出す。出来る出来ないは二の次だ。なぜなら症候群で自転車操業的な精神状態に陥っているからだ。政府の試算によると、国家も、家庭も、経済も、“致命傷”になりかねない打撃を受ける。環境問題の理想を掲げた結果、景気回復は失速しかねないのだ。米国の14%、欧州連合(EU)の13%減より格段に高い数値を公約して、「環境亡国」になっても、どの国も同情してはくれないだろう。「25%削減」は、これから次々に出てくることが予想される、鳩山の「暴走第1号」と位置づけられよう。
さすがに朝日新聞だけは、自らの主宰する地球環境フォーラムでの発言だけあって、発言を「優しく、優しく」処理している。仕掛けておいて批判するわけにもいくまい。社説でも「温暖化対策で、日本は変わる。そんな確かな予感を世界に抱かせる次期首相のメッセージである」と手放しの高揚感だ。あまりの評判の悪さに、9月9日は一面に取って付けたような解説を掲載しているが、説得力はゼロだ。しかし他の全国紙は、冷静かつ厳しい見方をしている。読売は9日付の社説で「高い削減目標より、現実的な施策で世界の排出削減に貢献する。それが日本がなすべきことだ」と反対している。毎日も「容易に達成できる目標ではなく、国民の覚悟が必要だ」と否定的だ。日経が政府の試算として報道しているところによると、2020年までに官民合計でなんと180兆円の投資が必要になるという。その結果、(1)国内総生産は3.2%ダウンし、失業率は1.3%上昇する、(2)一般家庭の負担増は、光熱費の上昇などで年間36万円必要となる、などなどである。
これで国家や一般家庭が立ちゆくかということである。産経の社説も厳しい。「日本が突出して高い削減率を示すことに、どういう意味があるのだろうか。25%削減で、国民の生活と国の経済が疲弊しても、世界全体では1%減に薄まってしまう。なおかつ、努力をしない国が経済的に潤うという不条理な状況さえ生まれかねない」ともっともな主張をしている。加えて「地球温暖化問題は、環境冷戦の側面すら持っている。各国の国益がかかった厳しい交渉なのである。友愛精神だけでは通用しない」と、理想主義へ走ることを戒めている。財界もトヨタ自動車社長の豊田章男が「CO2に関しては、もっと慎重に考えていただきたい」と珍しく注文をつけた。神戸商工会議所会頭の水越浩士も「荒唐無稽(むけい)もいいところだ」と拒絶反応を示しているが、産業界は無理に実現しようとすれば、外国への工場移転をどんどん推進し始めるだろう。
日本にいては生きて行けないから当然だ。産業の空洞化は極まるのだ。新日本製鐵会長の三村明夫も「すさまじい規模だ」と悲鳴を上げている。首相になるという高揚感が、細川の「国民福祉税」と同じ轍(てつ)をを踏ませているのであろう。鳩山は、他方で高速道路無料化でCO2を増大させる矛盾にも全く気づいていないようである。国民生活にはCO2削減で年間36万円の負担増、高速道路無料化で一人あたり24万円の負担、子供手当創設にともなう扶養者控除・配偶者控除廃止と狂ったような増税ラッシュとなってはね返って来かねない。政権がスタートする前から「日本沈没」構想を国際公約としてぶち上げるとは、先が思いやられる。国論は2分どころか、80~90%が反対論か、慎重論だ。早くもネットでは「民主党に投票した自分の馬鹿さ加減を嘲笑したい」と民主党批判が盛り上がっている。
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