ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2009-09-17 17:46
日米地位協定への環境条項明記の要求は緊急の課題か?
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
民主・社民・国民新党の新しい連立与党は、3党連立政権合意文書に「日米地位協定の改定を提起する」と既に明記していたが、その具体的内容として、まず日米地位協定への環境条項の明記を要求する方針のようである。環境条項は、在日米軍基地内で環境汚染が起きた場合に回復義務を負わせるというものである。現行の地位協定では、米軍施設で環境汚染を伴うような事故などが発生しても、米軍が拒否すれば、国や地元自治体は当該施設への立ち入りができない。また、米軍は、土壌汚染や水質汚濁などを現状回復する義務を負っていない。例えば、沖縄県では、米軍が訓練施設などを造営した後、使用した土地から赤土が川や海に流出したり、返還された基地の跡地から汚染物質が検出されたりするケースが指摘されている。
以上のようなことを背景に、1993年に米軍の施設に自国の環境法を適用できるようにしたドイツの例や、韓国が2001年に米国と交わした覚書の中で米国が韓国の環境法を尊重するとの文言を盛り込んでいる例を念頭に、日米地位協定にも同様の環境条項の明記を求めるということのようである。確かに、米軍に対して環境保護を求めることは必要なことである。しかし、日米地位協定への環境条項の明記が喫緊の課題であるとは思えない。また、地位協定自体に明記しなくとも、運用で何とかする方が現実的であろう。米国側が地位協定自体の改定に消極的である以上、余計なエネルギーを使うよりは、運用面での改善が妥当である。
それにしても、3党の要求は「地位協定の見直し提起ありき」であるようにしか思われない。国内的には、それで「米国に物を申した」ということで、「対等な日米関係」をアピールできると考えているのかもしれないが、新政権は米国のインド洋での給油継続の要求には冷淡で、米軍再編への協力も消極的である。その一方で、普天間飛行場の移設問題では県外移設を主張してみたり、今回のように地位協定の改定を言い立てたりしている。このような態度は自己中心的と言わざるを得ない。米国はアフガンで窮地に立っている。そういう時に、米国の要請に真正面から応えようとせず、自分の主張ばかりするというのは、同盟国のあり方としておかしいとしか言いようがない。「戦後の日本には、権利ばかり主張して、義務を果たそうとしない風潮が蔓延している」という批判がよく聞かれるが、3党がやろうとしていることは、まさにそれである。国と国の関係でも、権利ばかり主張して責務を果たそうとしなければ、うまく行くはずがないのである。
米軍に我が国の環境法を遵守させることの必要性は認めるが、今がそれに適した時機かどうかは、話は別である。私はそうではないと考える。その前に、鳩山代表の論文問題をはじめ3党の反米的な言動により米側に与えてしまった不信感や警戒感を払拭し、日米関係の信頼回復に努めることこそ急務であろう。日米同盟の信頼が高まれば、それだけ、環境に配慮した地位協定の実現への早道となる。その方が、はるかに確実であり、かつ日米関係の強化に良い影響を与えるであろう。この順序を間違えてはならない。民・社・国3党は、まだまだ野党気分が抜けていないのではないか。米国の政権は、数カ月は忍耐強く辛抱して付き合うと言っている。逆に言えば、「その先は知りませんよ」ということになる。新政権には、早く野党気分から脱却していただかなければ、我が国の針路を誤ることになりかねない。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:5546本
公益財団法人
日本国際フォーラム