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2009-09-21 12:31
日本も北極海利用に積極的に関与せよ
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
地球温暖化によって北極海の海氷が大幅に解け、北極海を経由して欧州とアジアを連絡する新しい航路(北極海航路)の実用化が、近年急速に注目を集めている。北極海航路には二つのルートがあり、一つはロシアのシベリア北岸を通う「北東航路」、もう一つはカナダの北岸を経由する「北西航路」である。現在のところ、北極海航路は夏季にしか船舶の航行ができないが、いずれ地球温暖化の進行に伴って通年の航行が可能になるはずである。地球温暖化の観点からは、喜ぶべきことではないが、いかに温暖化対策をしたとしても、今から急速に北極海の海氷が復活するようなことは想定できない。したがって、ここは「温暖化の防止」ではなく、「温暖化への適応」の観点に立って、新しい航路の実用化による経済的な果実を有効活用することを考える方が建設的である。
今月上旬には、ドイツの海運会社が運航する貨物船2隻が、韓国・蔚山から北東航路経由でロシアのオビ川河口のヤンブルク港にたどり着いたと報じられている。この2隻はヤンブルクで積み荷の一部を降ろし、ノルウェー北岸を経てアムステルダムを目指すとのことである。欧米商用船による北東航路の航行は初めてのことである。北極海航路は、当然、我が国にとっても重要な存在になるはずである。我が国は北極海に関心を有する国家として、環境調査・対策や安全な航行の確保のために、沿岸国とともに積極的に貢献するべきであろう。そのためにも、現在オブザーバー参加を申請している北極評議会への早期加盟を実現する必要がある。このことは、海洋ガバナンスへの積極参加に他ならず、日本の海洋国家としてのアイデンティティを明確にしてくれるであろう。
日本は海洋国家を自任する以上、海洋ガバナンスに積極的に関与しなければならない。それは、国益にも繋がるし、責務でもある。また、海氷の融解により北極海での海底資源の開発が容易になりつつあり、その海底資源も魅力的だ。ただ、露骨な態度をとらないことが肝要である。そんなことをしたならば、沿岸国の警戒を招き、北極評議会への参加がかえって遠のく惧れがある。北極海沿岸国と海洋ガバナンスに関する共同作業を積み重ねるうちに協力関係が深まり、結果的に海底資源の共同開発に繋がる可能性はあるかもしれない。海底資源に関しては、そのような節度をもった姿勢で臨むべきであろう。
北極海航路をめぐっては、日本はカナダ沿岸経由の北西航路を重視すべきであろう。これにより日加協力を進めるチャンスとしたい。カナダはウランの産出国であるから、連携を強めることは、ウランの安定供給に資するはずである。北極海では、上に述べたように、海氷が解けて海底資源の開発が容易になってきているため、沿岸国による資源争奪戦も激化している。これにより軍事的緊張が高まるようなことがあれば、北極海航路にも何らかの悪影響を与えかねない。北極海航路にはこのような懸念があるということに留意する必要はあるものの、やはり将来有望であることに変わりはない。我が国は北極海航路の本格利用に向けて、官民を挙げて戦略的に取り組むべきであろう。
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