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2009-10-19 07:30
問われる自民党の野党力:チャンス到来の臨時国会
杉浦正章
政治評論家
今度の臨時国会の論戦は、将棋で言えば初段と3級の勝負のようなものだ。序盤戦だというのに自民党の角が王手飛車取りをかけ得るのだ。公明党の桂馬が「桂馬のふんどし」で金銀両取りもかけられる。野党にしてみれば、鳩山政権は隙(すき)がありすぎて、政権スタート早々でなければ、50~60手で終盤に持ち込める戦況だ。しかし自民党は、大敗で転倒して、将棋盤の角に頭をぶつけて脳しんとうを起こしたうえにに、ぼけまで併発しており、公明党は新政権にも色目をつかうなど、ふらついている。せめて自民党のぼけが治れば、勝負ありなのだが。まず王手飛車取りの王手は、鳩山の「故人献金」、飛車は予見された大失政「水膨れ概算要求」だ。どちらも政権末期なら確実に政局に直結するところだが、まだ一部マスコミと蜜月が続いている。しかし新聞も見る目が厳しくなってきた。
概算要求問題は、読売新聞が17日付社説で「財源の手当欠く水膨れ予算」と6段ぶち抜きの大社説を掲げて「鳩山首相は財政規律を守り、国債発行を抑制するとしていたが、極めて困難な情勢だ。財源確保を後回しにしたツケといえる」と指摘。「政権公約にあるからといって、国民的合意を得ないまま強行するのは行き過ぎだ。鳩山首相は公約の撤回や先送りも含め、今後の予算編成に臨むべきである」と公約撤回を求めている。しかし撤回すれば、鳩山自身が「公約が実現しなければ責任をとる」と公言しており、言葉通りなら退陣となりかねない。毎日も「衆院選中から財源の不安は再三指摘されていたが、民主党は予算の組み替えや削減で捻出(ねんしゅつ)できると説明してきたではないか。『できませんでした』では済まされない話だ」と手厳しい。ところがここまできても朝日と民放が何をやっても民主党支持だ。朝日はなんと悪名高き概算要求にもかかわらず、「官僚依存から脱して新たな編成手法に挑んだ。まずは順調な滑り出しと言える」と褒め称えている。ピンと外れの将棋を指したのに、「待った」を認めているような社説だ。自民党は客観性のある読売、毎日の社説の線で追及すれば勝てる。
王手は、なんといっても「首相の犯罪」につながりかねない「故人献金」であろう。ここにきて東京地検は元秘書の事情聴取を複数回行っている。「秘書の犯罪は政治家の責任」と自民党政権を追及してきた鳩山が、すべてを秘書のせいにしてクビにした秘書だ。興味深いのはその秘書が、どうも主人のためなら死んでも秘密を守るタイプでなさそうなことだ。しゃべっているのだ。10月18日付産経にすごいスクープが載っている。元秘書によると、虚偽献金は父・鳩山威一郎の時代から続いていたというのだ。元秘書は、6月に虚偽記載が明らかになった後、知人に対し「長年の慣習だった。政治家の個人資産を他からの献金に偽装するやり方は、鳩山氏の父親の代からやってきたことだから」と明かしたという。これは鳩山が虚偽記載を始めた時期について「17年ごろからか、あるいはもう少し前かもしれない」と説明していることとも完全に食い違う。「実際には、鳩山氏の初当選直後から、個人資産を献金と偽る手法を繰り返していた疑いが浮上した」という。鳩山は捜査の邪魔になるからコメントしないと説明責任を回避してきたが、臨時国会の質疑ばかりは、このコメントでは通用しまい。「故人逮捕」は無理だが、自民党は、自分がかって追い込まれたあらゆる“野党戦術”を駆使して、追い詰める絶好のチャンスを手中にしつつあるのだが、ぼけが治るだろうか。
桂馬のふんどしは「公約断念」と「国債増発」にかけられる。金銀両取りとなるわけだ。マニフェスト至上主義の鳩山にしてみれば、公約断念はしたくないが、税収の落ち込みで国債増発は避けられない。いずれかの選択か両方の選択も必要になるかもしれない。口から出任せで総選挙に勝ったツケが早々と臨時国会で請求されることになる。早くも行政刷新会議担当の仙谷由人は18日TBSテレビで「法人税の落ち込みは、麻生内閣分である」と前政権の責任に転嫁しようとしている。仙谷は朝日の編集委員・星浩にテレ朝の番組の席で「麻生さんの失政によるものだから、6兆くらいの赤字国債発行はしょうがない」と“智恵”をつけられており、これをそのまま受け売りしている形だ。いったん政権の座についたものが、前政権に責任転嫁をしてはならないのは、憲政の常道だ。それもコメンテーターの発言を受け売りするとは恐れ入った。いずれにしても、追及の材料は山積している。このほか完全失業者数360万人という厳しい雇用状況への責任問題も逃れられない。これらをどのように料理できるかは、自民党の“野党力”が問われる場面だ。
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