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2010-01-12 09:32
日米同盟危機の深化を憂う
鍋嶋 敬三
評論家
1月19日は現行の日米安全保障条約調印50周年の記念日だが、祝賀ムードは日米間にない。鳩山由紀夫首相の普天間米海兵隊飛行場移設を巡る迷走から日米関係が緊張するという異常事態だからである。1951年対日平和条約とセットで調印された旧日米安保条約は「サンフランシスコ体制」の柱であった。2001年9月8日、平和条約が調印されたサンフランシスコのオペラハウスに宮沢喜一元首相や米国の知日派多数が参集、戦後50年の日米関係の総括と21世紀の同盟関係について話し合った。その3日後、同時多発テロが襲った。筆者が帰国のため空港に向かおうとしていた朝である。全米の空港が即閉鎖、戒厳令下の状況になり、美しいサンフランシスコの街もゴーストタウンと化した。帰国できたのはその4日後であった。小泉純一郎首相はブッシュ米大統領のテロとの闘いにいち早く明確な支持を表明、首脳間の信頼関係を揺るぎないものにした。牛肉輸入制限問題など政治問題化しかねない懸案もブッシュ政権の8年間水面下に押し込まれた。
鳩山政権下で日米関係は様変わりである。2009年政権発足直後の9月と11月、オバマ大統領との首脳会談で日米同盟深化について一致したが、普天間問題がトゲになって「深化」どころではない。年末にはクリントン国務長官が藤崎一郎駐米大使を呼びつけ、日米合意通りの米軍再編計画の早期履行を要求した。鳩山首相が結論を先送りしたうえ、コペンハーゲンでの同長官との会話で「理解を得た」と発言したことへの抗議である。同盟国としては極めて異例の対応であり、それだけ鳩山政権への不信感が強いということだ。民主党政権としての安全保障戦略の明示もないまま、合意の一部だけいじろうという同盟管理に大きな欠陥がある。きしみが経済分野にも波及する気配が濃厚である。日本のエコカー減税に対して米通商代表部(USTR)や議会から制度変更の要求が突き付けられている。秋の中間選挙を控えて経済摩擦が噴出するおそれがある。対日不信を強めるオバマ政権が業界の突き上げを受ける政府部内や議会を抑える気になるだろうか。
日米安保関係に危機は15年ごとに訪れた。鈴木善幸首相は1981年、レーガン大統領との首脳会談の共同声明で「同盟関係」を認めた直後、「軍事的な意味はない」と述べて軍事協力の前進を否定し、伊東正義外相が辞任する政治危機を招いた。1995年の沖縄少女暴行事件は日米安保体制を揺るがした。翌年の日米安保共同宣言、新日米防衛協力の指針、沖縄特別行動委員会(SACO)報告などで同盟の新たな枠組みが定まったのである。「普天間返還」はその象徴であった。そして鳩山政権発足以来の混迷である。
知日派のマイケル・グリーン氏は2001年の日米関係50周年の評価の中で、同盟関係が有意義であった二つの側面を指摘した。(1)堅固な日米関係が台頭する中国への関与政策上の支えになる、(2)米国のアジア太平洋地域に対する前方展開の信頼性も強化される。同氏は同盟関係が成功するのは「戦略環境の突発的な変化に対応できる準備」ができているかにかかっている、としている。鳩山首相はじめ民主党は政権交代を叫んでいた野党時代に、どれだけ21世紀の国際情勢の変化に備えるべく同盟戦略を練ってきたのか。政権発足後の迷走ぶりからすれば、何もしてこなかったということだろう。同盟の危機は深まるばかりである。
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