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2010-04-11 12:23
北沢防衛相の「米軍施設は迷惑施設」発言は辞職に値する
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
北沢防衛相が、4月8日の参議院外交防衛委員会で「米軍施設は『迷惑施設』だ」という発言をした。すなわち、米海兵隊の普天間飛行場の移設問題に関して、自民党の佐藤正久議員の質問に対して「一般的にいえば『迷惑な施設』としての米軍の駐留地を建設する。大変な反対の中で犠牲を払ってやっていただくわけで、並大抵のことではない」と述べた。鳩山政権の拙劣極まりない対米政策は、もはや、いちいち指摘するまでもない話だが、現在の我が国の防衛の最高責任者が、我が国の安全保障政策の根幹をなす日米同盟に関して、このような認識を持っているという、極めて危険な実態を知っておく必要はある。これは、「国難」と評してもあながち誇張ではあるまい。
米国は日本防衛のために血を流す覚悟を持っているが、そのような米軍の施設を「迷惑施設」とは何事か。米国には「日本は安保タダ乗りだ」という不満がくすぶっている。北沢発言は「タダ乗り」を通り越して、「迷惑施設だ」という不見識極まりないものであり、米国の「タダ乗り」批判を爆発させかねない。ただ、北沢発言は、氏の政治家としての資質の問題にとどまらず、日米同盟に対して、少なからぬ日本人が持つ屈折した感情と無知を象徴しているように思われる。例えば、普天間の新たな移設先を検討する過程で、本土への分散移転の話が出るや、条件反射的に猛烈な反発が出てくる。もちろん、分散移転などは、軍事的合理性を全く無視した空論だが、名前が挙がった候補地の異様な反応は、やはり米軍施設を「迷惑施設」としか見ていない証左である。一方、米国がいざとなったら自らの血を流して日本を助けてくれる保証はないから、日米同盟は役に立たず、日米同盟は対米従属の証であるとして、敵視する反米右派もいる。彼らの主張も、同盟への無知からくる謬説である。
在日米軍基地に関して屈折した感情があるのは、冷戦時代からの話である。かつて、金丸信氏だったと思うが、ホスト・ネーション・サポート(いわゆる「思いやり予算」)の必要性を説く文脈で、「在日米軍は番犬だ」と言って、「それは失礼ではないか」と指摘され、「それじゃ番犬様だ」と答えていた記憶がある。これは、日本国民の中にある米軍基地に対する鬱屈した感情を慰撫する意図であったと思うが、日米同盟の意義を全く正しく説明していない。日米同盟に関する屈折した感情が蓄積するのは、畢竟は日米同盟が非対称的だからである。よく「日米安保は片務的だ」という俗説を耳にするが、それは、不正確で、「双務的だが非対称的」というのが正しい。すなわち、日本は米国の世界戦略のために(条約上は「極東の平和と安全のため」だが)領域内に米軍施設を設置することを許容するが、その代わりに米国は日本防衛にコミットするということである。
冷静に考えれば、日米同盟はギブ・アンド・テイクの関係になっているし、近年は、日本側の人的コミットも拡大してきている。しかし、大雑把な言い方をさせていただくならば、米国は生命を提供するのに対して、日本は施設を提供するというのでは、同盟を「我が事」としてなかなか認識できないのではないだろうか。この非対称性を少しでも緩和するには、結局我が国の自国防衛に関する自助努力の大幅な拡大と、集団的自衛権の行使容認が2つの大きな柱となる。我が国も米国のために血を流すという覚悟がなければ、屈折した感情は消えることはなく、健全な同盟関係を築くことはできない。それは、言うまでもなく、我が国の安全保障にとって、大きなマイナスである。しかし、どのような背景があるとしても、いやしくも防衛大臣たるものが、日米同盟に関してお粗末な妄言を吐くことへの免責事由とは全くならない。北沢氏には、防衛大臣の辞任を求めるほかはない。
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