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2010-05-17 21:13
崩壊し始めたヨーロッパ連合
小沢 一彦
桜美林大学教授
過日、ヨーロッパ滞在1年間にイギリスを中心に、遠征したバルカン半島を含め、知見の一部を紹介いたしましたが、今回はより詳しく、この眼で見た実態を報告します。まずは、ヨーロッパ文明の発祥地・ギリシアのアテネからです。近未来の日本の参考とするために、命がけで何度かデモやストライキの取材に訪問しましたが、警察部隊の催涙弾、ゴム弾、また、デモ隊の投石、火炎瓶などを初めて体験しました。こちらは無防備な「素手」、CNN記者などは、みなヘルメットにガスマスク姿でした。自分の眼で見たことですから、確信を持ってご報告できます。
最近の混乱の原因としては、2年前の警察隊による15歳少年の射殺事件がありますが、根本原因は、パパンドレウ、カラマンリス両家の二大政治ファミリーによる「疑似政権交代」、「政権たらい回し」による既得権益保護にあります。彼らの周囲の富裕層も、かつてのマリア・カラスを愛人にしていた海運王・オナシス同様、莫大な財産を内外に隠し持っているのです。そして、ギリシア・オリンピックの頃には、そこそこの経済発展をしていたので、ギリシア政府の「大本営発表」をそのままEUでは、信じ込まされてきたわけです。
こうした政治腐敗構造を破壊しない限り、矛盾は永久に解決しないにもかかわらず、緊縮財政政策で公務員や貧困層にのみ負担を押し付けたためのデモ・ストライキなのです。「特権階級」以外は、社会保障制度も医療制度も貧困で、失業すれば、即生活崩壊が待っております。さらに、ポルトガルやスペイン、アイルランドなども同様の財政赤字を抱えており、ギリシア財政危機を食い止めない限り、財政破綻のドミノ現象が起きるはずです。だからこそ、1兆ドルの緊急支援策を実施したのですが、その負担は、主にドイツやフランスが背負うことになり、突然の他国に対する負担増大に、両国の納税者は怒り爆発、大きな不満を抱えています。そして、グローバル化経済の特徴はここでも浸透しており、欧州の中心と周辺の経済格差は拡大する一方です。米投資家のジム・ロジャーズが「ユーロという通貨自体が内部から腐食しており、いずれ消えてなくなる」と予言したように、本当にヨーロッパは正念場を迎えているのです。
私見では、ロシアに対抗するため、ミサイル防衛などで軍事戦略上加盟国を27カ国まで拡大させてしまったのは、あまりに拙速でやりすぎでした。伝統的な南下政策を持つロシアへの対抗上、軍事的要地にあるギリシアを財政構造を検証することもなく加盟させ、甘やかしてきたことでは、アメリカにも大きな責任があるのです。おかげで、トルコはEU加盟への意欲を失い、「G20」やイラン、シリアなどとの貿易を優先するように政策転換しております。
結論として、ヨーロッパ連合のようなキリスト教文明圏で、比較的経済的にも安定した「先進国」間の政治経済統合ですら、崩壊寸前なところを眼前にすると、日本だけが負担国とならぬように、「アジア共同体」の設計は、緻密であるべく、まだ15年から20年は時間が必要だというのが、筆者の欧州観察の正直な愚見です。ただし、日本の財政赤字の数値からいって、その頃には日本自身が「アジア共同体」加盟の基準を満たしていないという皮肉な結果に終わるかもしれません。国際政治も国内政治も、まさに「一寸先は闇」なのです。
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