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2010-06-03 09:54
「東アジア共同体」への米国の関与は不可欠
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
普天間移設問題をめぐる悶着は、鳩山政権発足後の日米関係の急速な冷却化の一つの象徴だったが、もう一つ日米間の亀裂を深めた、忘れてはならない事項がある。それは、米国排除を示唆した「東アジア共同体」構想である。昨年9月の鳩山首相訪米では、鳩山首相は日中首脳会談や国連演説では「東アジア共同体」構想について明確に言及したが、日米首脳会談では同構想について何の説明もしなかった。このことが、米国に大変な不信感を与えた。さらに、昨年10月には岡田外相が、日本外国特派員協会での講演で、「東アジア共同体」構想について、「日本、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、インド、オーストラリア、ニュージーランドの範囲で考えたい」と明言してしまった。
これは、すなわち、「東アジア共同体」には米国を正式な加盟国として加えないという意味に他ならない。米国抜きの「東アジア共同体」では、中国の勢力圏下に入る「東アジア共同体」という形にならざるを得ない。それは、「アジア太平洋地域において覇権を唱える国家の出現を許さない」という国家戦略を持つ米国が最も忌むところである。したがって、「東アジア共同体」構想も日米関係冷却の大きな要因であった。ところが、6月1日に、辞任直前の鳩山首相が閣僚懇談会において、「東アジア共同体構想を具体化するための指針」を明らかにし、その中で、「米国を含む関係国との開かれた透明性の高い地域協力を推進する」、「米国の関与は不可欠」と明記した。さらに、「日米同盟は地域の平和と安定のための礎である」とも明記された。
「指針」は、具体的な目標として、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の推進、マラッカ海峡の海賊対策(沿岸国へ巡視船の供与)、5年間で10万人の人的交流の実現、などを掲げているが、やはり最も重要なポイントは、「米国を排除せず」とした点である。さらに、「指針」はAPECやASEAN+3といった既存の枠組みを活用して、地域の平和と繁栄を目指すとしている。これをもって「東アジア共同体」構想と言うのならば、現実的かつ穏当なものである。鳩山政権は、普天間移設問題で迷走した揚句、移設先は名護市辺野古沿岸部という、2006年の日米合意とほぼ同じ内容の政府間合意を米国との間で交わし、普天間移設問題に一応は正しい方向性をつけた。それに加えて、「東アジア共同体」構想でも真っ当な方向性を打ち出したと言える。
普天間移設問題と鳩山首相自身の退陣により、すっかり霞んでしまったが、今回の「東アジア共同体」構想に関する「指針」は、米国に対してよいメッセージを発している。「東アジア共同体」の内容自体依然として漠然としたものだが、「米国を排除しない」と明言したことは、これまでの経緯から言って、日米関係改善に向けた象徴的意味合いを持つと思われ、もっと注目されてよいのではないかと思う。ただ、これらが、自らの失策を多大な政治的エネルギーを浪費して元に戻しただけであるということは、当然、非難を免れない。普天間移設問題にしても、「東アジア共同体」構想にしても、結局、自民党政権のスタンスに回帰しつつあるように思われる。これは、歓迎すべきことである。最後に、やや蛇足ながら、「外交政策によって政界再編がなされるべきだ」という意見を時折見聞きすることがあるが、とんでもない話である。それでは、政権交代が起こった際に外交政策の継続性が保たれなくなるからである。政権選択の基準は、あくまでも国内政策であるべきである。
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