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2010-06-12 13:03
歴史的試練に立つEU統合の将来
小沢 一彦
大学教授
EU周辺国を歴訪し、1990年代の大規模な内戦の爪痕や、2010年の今日の財政危機の原状を現地視察してきた新しい視点から、欧州の将来について考えてみたい。17世紀以来の主権国家中心の国際体制からの世界秩序形成原理転換の一つのモデルとして期待されてきた「欧州地域統合」は、いま財政破綻に伴うソブリン・リスクという歴史的試練に立たされている。
そもそも1950年の「シューマン・プラン」は、仏独間の「恒久和解」を企図するものであった。また、確かに欧州統合が、1900年の一人当たりGDP0.3万ドルから2009年の2.3万ドルまで、経済発展を促進したことは間違いない。ところが、「成功神話」に乗り、「共有される主権」などの統合の内部化を進めた結果、域内共通市場、主権国家の超越と競争力の強化、貿易拡大や経済成長もあって、あまりに拡散し、欲張った要求が、いまや重荷となっていたのだ。その過大な期待の中に、今日の再度の懐疑主義・悲観主義の要因が含まれていたのではなかろうか。
欧州共同体や欧州連合のプラス面(楽観主義の要因)の第一としては、米ソ冷戦構造による軍事的安定もあったが、少なくとも域内での戦争を最小化したことがある。加えて、共通市場での自由化によりマーケットが拡大したこと、共通通貨ユーロが導入されたこと、多国籍軍、欧州憲法、欧州議会などの政治協力を拡大したこと、さらにはドイツ統一を穏便に処理解決したことなどが、挙げられる。反面、マイナス面(悲観主義の要因)としては、「EU外部化」での内部的混乱やロシアほかとの緊張招来に加え、中心と周辺の経済格差拡大、想定外の「G20」などの世界多極化の到来、西欧先進国間での主導権争い、欧州中銀や欧州民間銀行の資産悪化・損失拡大、国家財政危機の拡大、EUとしての加盟国財政の監視体制の欠如、さらには海外からのイスラーム教徒移民の増大に伴う摩擦の発生などがある。
最近の欧州人のアイデンティティー調査を見ても、「ヨーロッパ人」としての自覚は、なかなか主権国家の国民としてのそれを超えるには至っていない。だからこそ、「他国」の財政危機への相互扶助の体制づくりは、まだ困難なのである。むしろ、オランダ、ベルギー、スペイン、イタリアなどで「分離主義」的な動きさえある状態だ。これまでの旧ユーゴスラビアやその周辺国での動向でも指摘したように、私の現地観察でも、富裕層・エリート層と一般市民ではその生活意識が異なり、一般市民を含めたより本質的なレベルでの政治統合は、まだ達成されていない。世界的な金融危機は、世界最大の財政赤字国である日本にとっても、決して他人ごとではない。日本は、今後周辺諸国とのいっそうの友好関係強化に努めるとともに、EU諸国の財政再建に向けた動きに注目していきたい。
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