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2010-06-17 07:50
いつまで日本は米国に従属するのか?
吉田 重信
自由老人
民主党の鳩山政権が退陣して、代わって菅政権が発足した。鳩山政権が発足した当時、私はその「歴史的意義」、つまり、明治維新、敗戦による変革に次ぐ、第三の変革の季節が日本に到来したのではないか、との文章を書いた。鳩山政権は短命に終わったが、この文章の趣旨はいささかも変える必要がないと考えている。むしろ、菅政権の誕生は、「雨降って地固まる」のごとく、民主党にも国民にも変革への見通しが一層よくなったと考える。鳩山首相の弱点は、自分の描いた夢が実現可能と錯覚してしまったことにある。それでも、功績は大きかった。まず、迷走した過程を経たが、最終的には米政府との合意によって、沖縄・普天間基地の移転先を、ともかく辺野古に移転するとの道筋をつけ、曲がりなりにも懸案解決のめどが立った。次に、実力者である小沢沢党幹事長と示し合わせてともに辞任した。この結果、党の二元的権力状態が解消され、それを評価した国民の民主党への支持が一挙に回復した。第三に、鳩山は、次期の衆議院議員選挙に出馬しないと表明し、その潔さと知恵のほどを示した。この決断ぶりは、自民党の小泉首相の後継者たちで、同じく世襲政治家であった3人の首相が、いずれも権力失墜した後も、未だに恋々と議員の地位にしがみ付いている姿と比べ、なんと爽やかに映ることか。
これらの鳩山の英断ともいうべき措置によって、菅政権は今後随分と仕事がやり易くなり、残された懸案解決に専念できるようになったと見る。さらに、民主党内の閣僚や議員たちは、鳩山政権の失策から多くの教訓を学び、今後に生かすことができるようになったと考える。現に、鳩山首相が「友愛」の実現という抽象論を説いたのに対し、菅首相は「不幸最小社会」の実現という数量的で、現実的な政策目標を掲げるようになった。今の勢いでは、次の参議院選挙では民主党が単独ないし連立で過半数を制し、政権を長期に担当しえる可能性が出てきたようだ。国民は、民主党政権が安定した基盤のもとに、さらなる改革を進め、懸案問題を解決してくれるのを期待している。今後菅政権にとっては、やはり最大の課題は引き続き沖縄基地問題のよりよき解決である。とりあえず、鳩山政権によって、米国との間に辺野古への移転方針を確認した形で決着がついたものの、今後これをいかに地元住民に納得させていくかについては、まだめどがたっていない。最終決着に至るには、今後とも困難な紆余曲折が予想される。さらに、鳩山が最後の演説で示唆したように、民主党政権としては、今後米政府府との間で、時間をかけて在日基地問題、ひいては日米安保条約のあり方を見直すうえで成果を挙げることができるか否か、という長期的課題もある。この問題こそが戦後の日本の歴代政府が抱えてきた問題なのである。
しかし、今回の基地問題をめぐる鳩山首相の挫折のいきさつを見ると、日本は引き続き米国の属国であり、日本の政権は米国によって操作されていることが、改めて露呈されたと考える。米政権が鳩山政権の基地移転の要求を頑として受け付けなかったのは、そのことにより日本が米国に占領された属国であることを日本や諸国に納得させることにあったと、うがって考えたくなる。さらに、米国の意向に沿う抵抗勢力として、外務省と防衛省をはじめとする官僚勢力が鳩山政権の意向に抵抗したのである。しかし、もっとぶざまだったのは、日本のマスコミや多くの言論人の言動であった。彼らは、ワシントンで米国政府筋から得た情報などをもとに、「米政府は鳩山政権に不信感をもち、日米同盟は危機に瀕している」などと大袈裟に書き立てることに余念がなかった。彼らの様子は、一体どこの国のマスコミか、言論人かと疑いたくなるほどだった。これは、彼らが引き続き米国の大きな支配のもとにあり、米政府のお先棒を担ぐ体質であるからだろう。もし、今回日本の官僚やマスコミが鳩山政権の対米姿勢や沖縄住民の意向を支持し、米国政府を牽制する側に回っていたならば、米政府は鳩山政権に譲歩した公算が大きかったと考える。何故なら、米政府は、韓国やフイリッピンで起こったことに鑑み、住民やマスコミの敵視のなかでは米軍基地が十分に機能しないことをよく承知しているからだ。このように、日本を支配する米国の意向は強固であり、これに対するにわが国の体制は弱体である。この状況は、一朝一夕には変えることができないと考える。つまり、民主党政権と国民は、独自性を守るため、米国に対する息の長い戦いを行う覚悟が求められているのだ。
日本における米軍基地の擁護論者は「基地を米国に提供しないと、有事の際に米国は日本を守ってくれないかも知れない」と言う。いわゆる米軍「人質論」である。しかし、この擁護論には「米軍基地があっても無くても、事態は変わらない」という盲点がある。北朝鮮が韓国に進攻した際や、イラクがクエートに進攻した際には、別に現地に米軍の基地があったわけではないが、米政府は韓国やクエート支援のために参戦したのである。つまり、問題は、米軍の基地や防衛を約束する条約などの有無にかかっているのではなく、日本が米国にとって守るべき価値のある友好国であるか否か、なのだ。最近外務省が行った米国での世論調査の結果では、「米国にとって大切な国は、日本より中国である」と考えているひとが断然に多いという。したがって、日本としては、米国に大切な友邦であると考えさせる施策こそが肝心なのだ。米国にいつも従順に従っているほど、かえって米国は日本を軽んじる結果になろう。それは、米国のイラク進攻の際に、あからさまに「ノン」と言ったフランスが、結果として米国において尊敬されている例からもうかがわれる。日本もそろそろいつもアメリカに対して「イエス」ばかりではなく、「ノー」という外交を学ぶ時が来ているようだ。そのためには、戦略的思考、情報、知恵がいる。これが今後の民主党政権に求められている適格条件のひとつであろう。
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