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2010-09-28 17:43
中国のレアアース対日禁輸は恐れるに足りない
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
中国は、尖閣沖での中国漁船と海保巡視船の衝突事件への日本の対応を不満として、レアアースの事実上の対日禁輸に踏み切っている。9月27日には経済産業省の田嶋要政務官が、「中国商務部の外郭団体「五鉱商会」が中国のレアアース関連企業を集めて会議を開催した」との情報があるとして、対日輸出停止が指示された可能性を示唆した。中国人漁船船長逮捕への報復としてレアアースの対日禁輸を実施すると中国政府が明言してしまえば、明確にWTO協定違反となるから、中国政府は禁輸を表向きは否定しているが、実態を精査すれば、中国の行為はやはりWTOの問題とすることができるであろう。中国が通商に関する国際的なルールを破る国であることが明らかになれば、困るのは中国自身である。
現在、レアアースの産出量は、中国が全世界の95%程度を占めている。レアアースの埋蔵自体は、中国に偏ってはいるが3割程度に過ぎず、カザフスタン、モンゴル、ベトナム、オーストラリアなどにも多くの埋蔵量が確認されており、中国の独占を打破すべく開発が進んでいる。中国がWTO協定に違反しかねないような形でレアアースを外交カードとして使おうとするならば、やはり対中依存から脱却しようという動きは加速するであろう。レアアース・カード自体が後述するように効果の薄いものである上に、「ルールを遵守しようとしない中国」というイメージが確立されれば、各国に中国との経済関係そのものを見直させる機運となろう。それこそ中国にとっては大きな痛手である。日本は中国のやり方を国際社会に大いに訴えるべきである。
レアアースの新たな調達先としては、我が国は、地政学的条件を考えるとオーストラリアおよびベトナムを重視するのがよいと思う。ここで地政学的条件というのは、我が国から地理に比較的近く、海路での輸送が物理的に容易であり、中国の脅威を共有しているという意味である。もちろん、より長い目で見れば(といっても数年単位だが)、代替物質の開発にも全力をあげる必要がある。
レアアースは、ハイブリッド車をはじめとして、先端技術にとってなくてはならない存在だが、中国にはそのような先端技術はないから、対日禁輸を実施して在庫をいたずらに増やしても、何の得にもならない。まさに自殺行為であるとしかいいようがない。商売は双方にとって利益があるから成り立つという、当たり前の原則に立ち戻って考えれば、レアアースの禁輸が外交カードとして大して役に立たないことは即座に分かりそうなものである。「レアアースが入って来なくなったらどうしようか」などと慌てふためくと、外交政策を誤る。中国の自殺行為を最大限に活用する知恵が求められる。
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