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2011-05-25 12:22
イスラエルに対するオバマ大統領の5・19演説に異議あり
河村 洋
NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
バラク・オバマ大統領は、オサマ・ビン・ラディンへの攻撃の成功を節目に中東改革に対する基本的なアプローチを表明する演説を行なった。この演説では広範囲にわたる問題が取り上げられたが、中でもイスラエル・パレスチナ問題への言及はメディアの注目をおおいに集めた。国際社会はオバマ氏が5月19日の演説で中東和平のためにイスラエルに1967年の国境外の土地の放棄を迫った一件に歓喜した。これは多くの人が期待するほどの和平の突破口になるのだろうか?この問題について、手短かに私見を述べたい。
イスラエルの視点に立てば、オバマ氏はパレスチナ側に何も要求せずにイスラエルには土地の放棄を要求している。『エルサレム・ポスト』紙のダビド・ホロビッツ記者は「オバマ氏が2009年のカイロ演説でユダヤ民族と現在のイスラエルの領土の間にある歴史的関係に言及しなかった」と指摘する。「歴史と主権の関係が受け入れられないなら、イスラエルとパレスチナの間で真の妥協は成立しない」とホロビッツ氏は言う。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はオバマ氏の演説を「2004年にジョージ・W・ブッシュ大統領とアリエル・シャロン首相の間で交わされた合意を覆すものだ」と解釈している。その合意では「1967年国境外地域からのイスラエルの全面撤退は要求されない」こと、そして「パレスチナ難民を将来のパレスチナ国家が受け入れる」ことが記されている。同じく『エルサレム・ポスト』紙のヘルブ・カイノン記者は、オバマ氏の発言を以下の3点から批判している。第一は、オバマ氏が1967年の国境を和平交渉の基本だと述べたために、イスラエルは六日戦争で獲得した領土の全てをパレスチナ側に譲り渡すことになる。これはオバマ氏がパレスチナの政策目標を擁護しながら、イスラエルには全面的な妥協を要求していることになる。第二に、オバマ氏は2004年の合意で謳われたパレスチナ難民のパレスチナ国家への帰還を再確認しなかった。これによって難民問題が曖昧になり、イスラエル側の懸念を刺激した。第三に、オバマ氏はハマスとの対話路線を以下の基本原則を明確に要求もせずに始めようとしている。それはテロの抑制、イスラエルの承認、そして従来からの合意の受容である。
アメリカ側からのオバマ提案への批判も取り上げたい。イスラエルの占領地からの完全撤退は考えにくいが、アメリカの政策形成者達は1967年の国境と殆ど同じ国境線を想定している。2004年の合意については、アメリカとイスラエルの双方ともほぼ同様な解釈である。しかしアメリカン・エンタープライズ研究所のダニエル・プレトカ副所長は「この演説のタイミングとバランスは不適切だ」と述べている。オバマ氏は1967年の国境について政権内の高官達に何の相談もせずに、直前になって独断で演説に盛り込むことにしたという。訪米中のネタニヤフ首相が、この論争を呼び起こしかねない演説を聞いて、驚愕したのも、無理からぬことである。バランスに関しては、オバマ氏はハマスのテロとパレスチナ地域の劣悪な統治を非難もしなかった。プレトカ氏は「こうしたバランスの欠如の根底には、オバマ氏がイスラエルに対して抱く反感があり、それはアメリカの価値観とも、国益とも、相容れない」と述べている。
いずれにせよ、私はオバマ氏が犯したタイミングとバランスに十分な考慮も払わずに従来の合意を覆すという過ちは、日本の鳩山由紀夫元首相が普天間航空基地で犯した過ちと同じものであると主張したい。
イスラエル・パレスチナ和平交渉に向けたオバマ氏の新提案を称賛するには、時期尚早である。他方で、バラク・オバマ氏は中東民主化推進というブッシュ政権の政策を再確認しており、国際社会も5・19演説の主題とも言うべきこのメッセージにもっと注目しなければならない。ベンヤミン・ネタニヤフ氏を驚愕させた空虚なパフォーマンスがなければ、この演説はもっと意義深いものだったと思われるだけに、これは残念である。
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