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2011-06-22 07:34
政商・孫と結託し、「脱原発解散」を狙う菅
杉浦 正章
政治評論家
近くのことでも予知できないことを「智者も面前に三尺の闇あり」という。「智者」をマスコミに置き換えれば、見えていないものがある。首相・菅直人の「再生エネルギー特別措置法案」への異常な執着ぶりは、一体何なのかだ。単純に原発事故に端を発した新エネルギー対策や、「歴史の評価」を意識した格好づけと受け止められるのか。そうではあるまい。完全に市民運動家に先祖返りした菅が、同法案で自民党と財界の脇腹にドスを突きつけているのだ。自民党の反対を予知して、同法案をめぐって激突し、「脱原発解散」を目指そうとする下心が見える。「70日延長で菅の8月下旬までの退陣が事実上確定する」などという見方は、甘い。絶対に「辞任」の言質を避けている二枚腰三枚腰の、菅ならやりかねない伏線が隠されている可能性がある。
太陽光、風力など再生可能エネルギー買い取りを電力会社に義務づける再生エネ法案の成立について、菅は6月21日の党幹部との会談でも異常なほどのこだわりを見せた。「自らの政治生命にかかわる」とまで言い切っている。50日延長は8月上旬までだが、70日なら、同月31日までであり、菅側近が漏らしているとおり、「広島原爆の日の脱原発宣言、その上での解散、9月総選挙」の日程がはめ込めるのだ。その辺の可能性を読んでいる政治家が一人だけいる。参院議長・西岡武夫だ。西岡は21日、再生エネ法案に関連して「首相は目先の大事な問題も処理しないまま、延長国会で、脱原発を掲げて衆院を解散しかねない。だまされてはいけない」述べている。
再生エネ法案についての財界の受け止め方はどうか。経団連会長・米倉弘昌は文書で「電力価格の上昇をもたらすことのないよう制度導入は見直すべきだ」と政府に反対を申し入れている。21日にはこれをより鮮明化させて「これほど社会主義的な産業政策はないと思う。企業は蹴飛ばされて、海外に出ざるを得ない」と、イデオロギーに根ざした産業の空洞化を指摘している。たしかに全量固定買い取り制は結局電力料金に跳ね返る。当面1世帯あたり500円と言う試算が出ているが、原発が全てストップした際の電力料金値上げ幅1049円に上積みされるから、標準世帯あたり合計で1549円の超大幅値上げとなり、7312円の電気料金となる。家庭のみならず企業にとっても極めて重い負担となり、大口需要者鉄鋼業界などは真っ向から反対している。電力を売るすべのない消費者に負担増を求めることにもなり、専門家の間でも疑問の声が強い。
菅が唐突に法案の成立にこだわりだしたのは、新エネルギー政策を商機ととらえている孫正義の入れ智恵があるとされている。15日得体の知れない市民団体の会合に出席して「辞めて欲しければ法案通せ」と挑発したのも、孫が「10年やって欲しい」とごまをすったのも、孫ペースの思惑がある。孫は財界主流に真っ向から挑戦していることになるが、東電と経団連と経産省を「敵」と位置づける菅の意向ともぴたりと合致する。加えて政局的な“落とし穴”がうかがえるのだ。蟻地獄がアリを待つかのように、菅は自民党が落ちるのを待っているのだ。菅は自民党が反対の攻勢に出てくれば、「解散」で切り返す可能性がある。3月11日朝の地震直前に閣議決定した再生エネ法案だが、孫の“アドバイス”を経て、菅は4月末頃から唐突に法案を気にし始めた。そして15日以来何よりも最優先で執着し始めたのだ。明らかに政局狙いであろう。市民運動家・菅としては、世の中は反原発ムードに満ちており、市民運動と連携すれば、同法案だけを争点に「脱原発」を訴えて選挙が出来る、と踏んでいるのかも知れない。資金は孫が後ろにつけば余るほどある。菅が生き延びる最後のチャンスはこれしかない。
では、自民党はどう出るか。総裁・谷垣禎一は再生エネ法案に「本当に実効的なものなのか、かなり検討の余地がある」と消極的な姿勢だ。同党参院側も国対委員長・脇雅史が「反対」を公言している。電力や鉄鋼業界などのバックアップを受けている自民党としては、基本は反対であろう。公明党代表の山口那津男も14日、「制度は理解するが、政府として電力料金負担、需要者の負担について透明化する努力が必要だ」と慎重だ。両党とも世論の動向を見極める必要があるのだろうが、激突となれば菅の思うつぼである。蟻地獄を前に窮地に陥る可能性があるのは、自民党でもある。「菅退陣」のポイントを押さえず、曖昧にしたままの会期延長決定は極めて危険を伴うと見ておいた方がよい。
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