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2011-08-09 00:32
歴史的大転換期にある3・11後の日本政治
小沢 一彦
桜美林大学教授
3・11東日本大震災後の日本政治においては、9・11同時多発テロ後の米国政治におけるのと同様に、歴史的な大転換となるはずの、いくつかの重要な変化が生じています。それを7点に整理して、以下に論じてみたいと思います。まずは、どのような国家社会でも、大災害の時には内向きで守りの姿勢に入るのは、歴史の教えるところ。当初の「3・11大震災パニック」は脱したものの、いまだに健康被害や食の安全に気を遣う毎日。福島第一原発事故の収束に追われながら、なかなか俯瞰的な世界政治を考える余裕が現在の日本社会にはありません。トマス・ホッブスのいう自己保存の法則が働いて当然の状況にあるのです。世論調査を見ても、自己保身に走る政治家・行政官を嫌悪し、今は総選挙など政治に関心が持てないのは、当然の意識だと思います。それが一層、日本政治の漂流を加速しているのです。
第二は、先の日本に蔓延する不安感・閉塞感が、遺憾ながら、どちらかといえば、「中道左派」の菅直人政権による「脱原発政策」を「後方支援」する形になってしまっているということです。人々が目先の自己保存や子孫の健康維持の方向に走りますと、将来のエネルギー不足や二酸化炭素問題、電気料金の値上げ問題より、「不気味な神の火を停止、または廃炉にせよ」という方向に社会的選好が働きやすいのでしょう。さらには、与野党内にも、今の支持率の低迷する菅政権のままの方が、支持率の高い新代表の登場後より、世代交代を阻止し、物事がやりやすいという思惑もあるのではないでしょうか。
第三は、2009年の政権交代以来、民主党の掲げた「政治主導」というスローガンの下で、政官財関係がギクシャクしてしまっていることです。「お友達内閣」は今に始まったことではありませんが、大震災や経済危機に直面した現在は、強いリーダーシップと「実務型の仕事師内閣」を必要としていることはいうまでもありません。そして、財界も資源エネルギー問題をめぐって、「新経済派」と「旧経済派」の対立を抱え、一致団結した圧力をかけられない状況に置かれているのです。追い打ちをかけるような、アメリカ国債の格付けの引下げが重なり、金融・産業界全体に不安感が広がっております。
第四は、与党内が、「ねじれ国会」の上、「ポスト菅」をめぐる「派閥・グループ間対立」が表面化していること。さらに野党側も、なかなか総選挙に持ち込めずに、攻めあぐねていること。それが政治の現状です。与党は、これだけ大きな勢力を衆院で握っていれば、たとえ参院で劣勢であろうとも、任期満了まで粘るべきだという計算が働くのは、政治の常道です。国会議員の意識においては、「再選はすべてに優先する」からです。
第五の要因は、3・11後に日本人および日本政府の意識が内向きとなり、対外政策に回す資源が激減していることです。日本型モンロー主義ともいえる意識構造になっているかのようです。しかし、かつてのアメリカとは異なり、資源エネルギーを輸入に依存し、世界市場をターゲットとしている日本の存在条件は、「鎖国」を許す状況ではありません。ここぞとばかりに、国境線を脅かす事態が生じておりますが、冷静かつ毅然とした態度で臨むべきでしょう。現在のような「非常時」こそ、友好国との交流をより深める「シャトル外交」の展開が求めらているのです。次期リーダーは、「内向き政治の打破」を心掛けて頂きたいものです。
第六の特徴は、ギリシアの財政破綻から拡大した欧州の景気後退から、今度はアメリカの財政難が表面化し、欧米ともに景気後退・衰退期に同時に入った、深刻なグローバル経済状況です。グローバル・マーケットでは、国民国家は、単なるゲームの駒。ウィーン体制のようなビリヤード・モデルは時代錯誤となりました。良い投資先さえあれば、マネーは国境を越えて、地球上のどこへでも飛んで行ってしまう時代なのです。いかに世界の投資家に気に入られる「買いの状況を創造するか」が問われる、「マーケット意識や経営感覚の問われる政治運営」がどこの国にも不可欠です。
第七は、欧米や世界の経済減速を前にして、日本売りが本格的に始まる前に、財政と社会保障の一体改革および、東日本の復旧・復興を、ここ数年で終えておかねばならならないということです。原発問題と財政改革が今後の大きな政策イシューとして浮上しそうですが、私はドイツ方式か、フランス方式か、を国民投票か、総選挙で選択し、自己責任によるソフトランディングでの解決をすることが、日本の現状に最もふさわしいと考えます。いまこそ、この「1000年に一度」という大きな国難を乗り超えて、未来志向でひたむきに前進すべき時なのです。
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