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2011-09-14 07:32
“疑惑”に怖じ気づいての「4日国会」
杉浦 正章
政治評論家
「百日の説法」ならぬ「35分の説法屁(へ)一つ」とは、このことだ。いくら首相・野田佳彦が所信表明で美辞麗句を並べても、一方で「たったの4日国会」を採決で強行する。説法も一挙に色あせる。握手を求めながら、足で蹴飛ばされては、野党もたまらない。全野党が激高しており、前政権で細々と続いた与野党政策協議の協調路線は脆くも崩れた。この臆面もなき「逃げどじょう」の政治を敢えて野田が選択したのはなぜか。よほどの事情がなければ与野党関係を犠牲にしてまで短期国会にこだわるはずがない。それは予算委員会の質疑を通じて出てくる“弱み”があって、時間稼ぎをしているとしか思えない。衆参両院で合計12回も異常なお辞儀を繰り返したことが物語るように、所信表明演説の内容は明らかに刺激を避けた低姿勢路線だった。とりわけ意識したのは野党より、民主党内向けだ。なぜなら消費税増税など党内に異論がある問題には言及せず、曖昧な表現にとどめたからだ。だから与党である国民新党も含めて、全野党が「具体性がなく、訴えるものに乏しい」という指摘で一致している。
なぜ乏しいのかと言えば、各省の政策を短冊に書いて貼り合わせるようなやり方を取ったからであろう。短冊の間に自らの感情を盛り込んだが、取って付けたようで白々しいのだ。勝海舟の氷川清話から取った「正心誠意」も、会期決定の暴挙とは裏腹だ。大震災の津波美談そのものは感動ものだが、人口に膾炙(かいしゃ)している話を繰り返されても“震災利用”の域を出ない。とりわけ問題なのは、野党との関係について「与野党の徹底的な議論と対話によって懸命に一致点を見いだす」「与野党が胸襟を開いて語り合う」の部分だろう。なぜなら演説に先立って、全野党が反対する「4日国会」を本会議の採決によって強行したからだ。美辞麗句とやることが全く矛盾するのだ。35年ぶりとなる反対討論で自民党の馳浩が、「信じられない暴挙だ。論戦できない『へなちょこ内閣』であり、首相は駅前演説に戻ったほうがいい」とこき下ろしたのも無理はない。
なぜこれだけ野党を怒らせても予算委審議の拒否にこだわったのかだが、表向き民主党は野田が来週国連総会で外遊する点と、与野党議員による海外視察が予定されていることを挙げている。しかし国連総会出席などは米大統領との会談を入れても数日で済む話しであり、歴代首相が国会中に出席する例など枚挙にいとまがない。議員の海外視察などは国会審議を止めるほどの重大事ではない。日程を変えれば済むことだ。それでは何が原因かと言えば、回答は国対委員長・平野博文がはからずも漏らしてしまった「不完全内閣で、十分な答弁が出来ない」という発言に尽きるのではないか。国会招集前からずっこける閣僚が出るほどだから、予算委審議で一問一答の質疑が行われれば、ぼろを出す閣僚がいくらでもいる。それでも政策は官僚の助けで何とかなるが、疑惑の問題は別だ。自民党幹部は「首相自身が外国人献金でおじけづいた」と指摘している。確かに野田は自らの外国人献金が発覚して、追及されてはたまらないと思ったことは間違いあるまい。野田は事務所を通じ「全く知らなかった」とコメント、調査を約束したが、その内容によっては、首相の進退問題に発展する可能性もある。
加えて、閣僚の黒い疑惑も事前のチェックが急場の組閣で十分に間に合わなかった可能性がある。その証拠に“マルチ商法献金王”で、何と消費者行政担当の国家公安委員長・山岡賢次が、9月13日、やはりおじけづいたのだ。記者会見で献金について、「法律的に問題はないが、消費者行政を担当する閣僚として誤解を受けないようにしたい」と全額返金する考えを示した。山岡の資金管理団体などが、平成20年まで、いわゆるマルチ商法の業界団体や関連企業から献金を受けていたとされるもので、早くも野党からは「 消費者を騙す消費者担当大臣」という批判が生じている。「返せばよい」では警察は不要だ。自民党政調会長の石破茂も「マルチ商法で問題になった、その人が警察のトップを担うのはどういうことか」と批判しており、予算委を開けば「焦点の人」になることは間違いない。野田にしてみれば、こうした疑惑に全て手を打って理論武装した上で予算委に臨みたいところだろう。そこには党利党略、個利個略があって、被災者対策に美辞麗句を費やしても霞む。こうして初めての所信表明として国民が期待した野田演説は「会期4日で逃げる人からは何を聞いても心に響きません」(小泉進次郎)というのが共通項となってしまったのだ。
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