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2011-09-26 07:03
再浮上した普天間移転問題で、政権の命運左右も
杉浦 正章
政治評論家
エコノミスト・浜矩子がテレビで、首相・野田佳彦を「野田は野田でも野太鼓」と形容したが、似ていなくもない。野太鼓とは、小説「坊ちゃん」にも出てくるが、芸もなくただ客の座を取り持つだけのたいこ持ちだ。就任以来、野田の外交デビューまでを観察してきた中で、野田の「人をいらだたせない特質」は何かが最大の疑問だったが、「野太鼓」で解けた。野田政治の根底には前・元2代にわたる「失政宰相」が専念した「いら立ちのパフォーマンス」を回避して、「実現性のある政治」のみを選択する安全運転路線が見えてくる。しかし、その選択がオバマとの会談で脆くも崩れた。野田は、米大統領・オバマに普天間移転早期実現の正式要求を突きつけられたのだ。普天間問題は、増税路線と並んで政権の命運を左右するものとして、まぎれもなく再浮上した。今日からの予算委員会の焦点となる。
野田のいら立ち回避の姿勢は「脱パフォーマンス」の政治とも言える。鳩山由紀夫の普天間問題での「国外。最低でも県外」、「CO2削減25%」発言や、菅直人の浜岡原発停止など、枚挙にいとまがない舌先3寸政治の排除であろう。政財界に反発の強い「脱原発」の発言は一切せず、逆に国連では「原発の安全性を世界最高水準に高める」と述べた上に「原子力利用を模索する国々の関心に応える」と強調、原発輸出の継続を宣言した。原発再稼働も「春以降」と時期を明示した。直ちに読売新聞は社説で「安全な原発活用を公約」と歓迎したが、朝日は「大いに疑問がある」と反発し、社民党党首の福島みずほも「原発推進だ」と反対するなど、脱原発派は怒り心頭に発している。野田は事実上脱原発派を切り捨てたのだ。エネルギー確保の現実論に立ったのだ。これがいら立ち解除をもっとも象徴するものだろう。折から9月25日、原発立地の是非が争点となった山口・上関町長選で、原発推進派の現職がダブルスコアで3選を果たしたことは興味深い。復興増税も党内的いら立ちの主因となる消費増税を真っ先に排除して、安易な所得・法人増税を選択した。
もっとも、この八方美人の路線は外交デビュー早々で難問に直面した。初会談では、いきなり日米間に刺さった最大のとげである普天間移設問題でオバマが「結果が必要だ。これからの進展に期待している」と厳しくクギを刺したのだ。野田は「両政府の合意に従って協力を進めていきたい。地元沖縄の理解が得られるよう全力を尽くす」と答えざるを得なかった。要するに「はい、そういたします」とオバマに辺野古への移設実現を公約したのだ。オバマとはAPECで11月に会談することになるだろうから、会談すれば「全力を尽くした結果」が問題となる。鳩山が行った普天間大失政を菅が無責任にも放置し、ついにオバマもぶち切れる寸前に至っていたのだ。オバマにしてみれば支持率低迷で再選への焦りがある上に、日本の優柔不断が原因して、グアムへの海兵隊移転予算が議会で滞っており、対日外交で余裕を見せることなど不可能に近いのが現実なのだ。すくなくとも上院が、言われているように年末までに移転費用を認めなければ、日米関係にもろに跳ね返る構図となった。野田の「沖縄の皆さんは、少なくとも普天間の固定化は避けたいだろう」という発言から推量すれば、最終的には野田は沖縄県民に辺野古移転を受け入れるか、普天間を固定化するかのを選択を迫らななければならないポジションとなる。
しかし、沖縄の空気は、全くそのような状況認識が通用するような状況ではない。かっては辺野古移転を言い、いまや移転反対の急先鋒と化した知事・仲井間弘多は「銃剣とブルドーザーで基地を作るのか」とまで発言、すごんでいる。野田の路線を突き詰めれば、全国の反戦・基地反対運動の眠りを覚まし、砂川闘争、成田闘争に勝るとも劣らない普天間・辺野古闘争を巻き起こす可能性がある。闘争の先頭に仲井間が立ちかねない状況だ。国家の安全保障問題が一知事によって左右されるという事態でもある。自民党幹事長・石原伸晃は「普天間移転は鳩山さんがひっくり返したガラス細工だ。ガラス細工ゆえに元に戻せない」と述べているが、野田が全力を尽くしても解決出来る域をはるかに超えているのだ。元外務審議官・田中均が「もう一度日米協議をやり直す時期に来ている」と述べているのは、手詰まり打開は再交渉によるしかないという切羽詰まった状況を言い表しているのだろう。しかし、オバマに実現を公約した野田が「再交渉」などと言った途端に、政権は根底が揺らぐことになりかねない。オバマが「彼とは一緒に仕事が出来る」と“おいしい”言葉を漏らしたとされているが、この発言は期待値に過ぎないことがやがて分かるだろう。それにつけてもルーピー鳩山が残した普天間大失政は3代にわたって民主党政権に“祟り”続けている。他人事のように鳩山は「一年で首相を辞めずに踏ん張れ」などと述べているが、政権の命運を左右するのは自分の失政であることが判っていない。
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