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2011-10-03 09:39
日本は既に大国の地位から転落したとみる米国
鍋嶋 敬三
評論家
「日米同盟は日本外交の基軸」(9月21日の日米首脳会談で野田佳彦首相)との基本方針が民主党政権でも変わらないのは当然である。さらに、アジア太平洋地域の平和と安定のための「公共財」(玄葉光一郎外相)、「礎(いしずえ)」(クリントン国務長官)との位置付けも定着してきた。しかし、足元が定かでない民主党政権の日米外交を見ると、普天間など基地問題を中心とした二国間関係に偏りがちだった。会談に先立ちオバマ大統領が野田首相を前に「21世紀の必要性を満たすように日米同盟を現代化しなければならない」と述べた。安全保障、経済、科学技術など同盟関係を包括的な戦略レベルに再構築する時期に来たと考えていることを示唆した。個別分野に比重が掛かりがちな日本と、戦略発想の米国とのギャップは、同盟管理の上からも放置できない。
大統領が普天間基地移設問題で「結論を出す時期に近づいている」と語ったのは、日本の民主党政権が日米同盟を傷付けることになったこの問題に、しびれを切らしたからである。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉参加について米側は「枠組み合意」に向けた作業中であり、日本の関与を歓迎することを明確にした。野田首相は「しっかり議論し、できるだけ早期に結論を出したい」旨大統領に伝えた(外務省発表)というが、「普天間」に加えてさらなる空手形になることは許されない。米国はTPPを単なる経済問題ではなく「戦略的問題」(キャンベル国務次官補)としてとらえているからである。
6月に公表された米国の対日世論調査(有識者の部)によると、米国の最も重要なパートナーは中国(46%)で日本の28%に大差を付けた。2004年には日本65%対中国24%で実に41ポイントの差を付けていた。実は2010年には中国56%に対し日本は36%と20ポイントの差で逆転されていた。米中経済関係の急進展を反映した米国内の対中認識の変化があらわになったのである。2011年調査では、日中のほかにオーストラリア、韓国、インドが質問項目に追加されたため、数値が分散した。他方、「在日米軍基地の設置を認めた日米安全保障条約が、アジア太平洋地域の平和と安全に貢献しているか」との質問、「米国自身の安全保障にとって重要か」という質問への肯定的回答は、いずれも90%と最高を記録した。
5月の下院公聴会でマイケル・グリーン戦略国際問題研究センター(CSIS)上級顧問・日本部長は「中国パワーが興隆するアジア太平洋地域での安定的な戦略的均衡の基礎としての日本に米国は大きく依存している」と述べたが、米国内の認識と軌を一にしている。アーミテージ・インターナショナル創立パートナーのシュライバー氏は「日米同盟は転換点を迎えている」と分析し、「先細りの日本が必然的に米国の影響力を弱める」と深い懸念を示した。「日本の指導者がこの重大な時期に下す決定は、日本が影響力の限定される中級国家に滑り落ちるのか、それとも地域と世界の指導的国家としてもう一度立ち上がるのか、を決めると言っても過言ではない」と断言した。日本は既に大国の地位から転落したと見ているのである。政権交代以来、「政局あって、政策無し」の民主党政権下の日本への警鐘にほかならない。野田首相は迅速に具体的成果をもってこたえるべき時である。
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