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2011-10-04 06:54
野田は無為無策の「普天間空白」を継続するのか
杉浦正章
政治評論家
打つ手がないというより、手を打つ意志がないというのが、野田政権の普天間移設問題への対応であろう。米大統領オバマとの会談で早期移設に全力を尽くす方針を表明したにもかかわらず、帰国後の首相・野田佳彦は、普天間問題から腰が引けている。政調会長・前原誠司までが「11月のAPEC首脳会議までの進展はない」と明言する始末。鳩山由紀夫、菅直人という希代の外交音痴が作った2年間の外交・安保上の空白を埋めようと、中国とロシアが虎視眈々と狙っているのは明白だが、「増税」で手一杯の野田政権は外交・安保などは優先順位にない。野田が普天間という火中のクリを拾いそうもない理由は明白だ。大統領の重要発言をカート・キャンベル東アジア・太平洋担当国務次官補のブリーフのせいにしたのだ。普天間問題に関する日米首脳会談の最重要ポイントは、オバマが「結果を求める時期が近づいている」と述べたのに対して、野田が「沖縄の理解を得るよう全力を尽くす」と述べた下りだ。当然早期決着を受け入れたと取れる。これに対して野田は予算委で「結果を求めるのが近いというのは、大統領本人というよりは、ブリーフした方の個人的な思いつきではないか」と否定したのだ。公式なブリーファーの恣意的な発言として、またも逃げたのだ。
野田がやる気なら、例え“オバマねつ造発言”でも、これをてこにして、沖縄説得に動くところだろうが、野田の選択肢には「増税」しか念頭にないように見える。発表されていないが、10月3日の米大使・ルースと野田の会談でルースがこれほどの重要問題を説明しなかったことはまずありえない。また野田が説明を求めないのもおかしい。怪しいのである。この野田の方針は党内的にも調整済みとみられる。政調会長・前原誠司は2日のテレビでAPECでの日米首脳会談への対応について「11月までに進展はない。期限を区切るべきではないし、区切らない」と明言したのだ。この結果、野田は早くもオバマの期待を裏切る流れとなった。オバマがAPECをハワイで開催するのは、明らかに「大統領選を意識している」という見方が強い。折から今年は「真珠湾攻撃70周年」に当たり、『ニューズウイーク』誌日本版によると、「戦艦アリゾナ」での各国首脳による集団献花も予定されているという。攻撃記念日を間近に控えて、メドベージェフや胡錦濤など戦勝国のリーダーと並んで、敗戦国首相・野田だけが、「敗者の屈辱」を味わうのだろうか。当然日本外交が健在な時期なら、そのようなイベントはないように根回しをするのだろうが。挙行されればマスコミはそれだけをクローズアップする。
これに加えてオバマから「普天間はどうなった」と聞かれて、またまた「頑張ります」では済まされまい。APECは野田にとって試練の場となりかねない。一方米国にとっても、普天間移設問題は明らかに対日外交の最優先課題となっている。議会上院は、普天間問題を海兵隊のグアム移転費用の問題とからめて、移転予算を人質にとり、大統領を追い詰めようとしているからだ。大統領は、過去2代の首相の無策ぶりに業を煮やしているのが実情だ。加えて野田の「逃げ腰外交」が露呈しては、米国の対日不信は頂点に達しかねない。しかし、普天間問題の解決は容易ではない。容易ではないどころか、現段階では不可能に見える。全てが鳩山の政治主導と称する素人外交に起因する。「最低でも県外」が全てをぶちこわしたのだ。自公推薦で2006年に知事となった仲井間弘多は、同年に日米合意した普天間移設を実現すべく慎重な準備していたのだ。その最中の鳩山発言だった。沖縄は眠た子が飛び起きた形だ。もう覆水盆に返らずとなった。
仲井間は2010年に再選して、任期は半ばだ。2014年の任期ぎりぎりで、急転直下認可に転ずることを期待する向きもあるが、仲井間自身が「2期目の任期中は、県外移設の要求を貫くのは当然だ。移設先は本土で探した方が早い」と先手を打っている。折から中国は、沖縄、尖閣列島と続く第1列島線を越えて支配権を強めようとし、ロシアは爆撃機を日本一周させるなど、日本をめぐる安保情勢は厳しい現実を見せている。しかし、野田以下政権幹部は、増税で目の色が変わっており、気を遣うのは小沢一郎ばかりだ。普天間を大局的に国家の安全保障と直結して語る政治家は、野田を含めて政権には1人もいないと言ってよい。かって自民党政権時代は、外務事務次官が週に1度は必ず首相に国際情勢をブリーフして「とんでもない失政」を回避してきた。とりわけ長期政権を達成した佐藤栄作は、外務次官を閣僚以上に重視したものだ。鳩山以後はその次官ブリーフを拒絶して、外交・安保の漂流と空白を招いてきた。野田は鳩山、菅のような「無知蒙昧の空白」ではないが、「無為無策の空白」を招きつつあるのではないか。早急に定期的な外務次官ブリーフを再開して、外交上の失政を回避することから始めるべきだ。
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