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2011-10-18 10:40
(連載)TPP交渉への参加表明を恐れるな(2)
角田 勝彦
団体役員
「平成の開国」を掲げ昨年11月に「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定し、農業支援策の検討に着手していた菅前首相は、東日本大震災のあと参加判断を当初の6月から「11月まで」に先送りしていた。11月APEC首脳会議がめどとされたのである。 野田首相に対しても、オバマ大統領が9月21日のNYにおける日米首脳会談で、TPP交渉への早期参加を要請したとされる。野田首相は「しっかり議論し、出来るだけ早期に結論を得たい」(9月13日の所信表明演説と同文)と約束した由である。
米国以外からの要請もあった。9月23日、シンガポールのリー・シェンロン首相は、訪問中の枝野経済産業相に対し「TPPはできるだけ多くのメンバーが加わることが重要だ。日本が加われば10か国になる」と日本の参加に期待感を示した。同首相は、さらに10月12日訪問した玄葉光一郎外相に対し、「可能な限り早い段階での参加が重要だ。大枠が決まる前にプレーヤーとして参加してほしい」と述べた。注目すべきは9月23日午前の会談で、枝野経済産業相に対し TPPの母体をつくった前首相のゴー・チョクトン上級相が「TPPの悪影響がわかれば、交渉から抜けることもできる。柔軟に対応すればいい」と、交渉参加を強く促したことである。例外なき関税の撤廃が原則だが、その掛け声をよそに、米国すら自国農民の反発を恐れ、豪州などから輸入する砂糖や乳製品を関税撤廃の例外にするよう求めているのである。
米国の本音を探るため10月初旬訪米した全国農業協同組合中央会幹部に対し、全米コメ連合は、「対日輸出は既に十五年。感謝している」と述べた。またTPPに関しても豚肉協会が、「日本は最大輸出相手国。どうしても参加を、との立場ではない」と関心を示さなかったとの話もある。すなわち日本のコメなども例外要求は可能であり、交渉の際の選択肢になり得る。他方「農業が壊滅する」と騒ぐだけで交渉に参加すらしないのでは自滅する危険があろう。話し合わないのは外交上最悪の愚策である。また当初はAPEC首脳会議を機にTPPの「大枠合意」が目指されたが、TPP拡大交渉に参加する9カ国の草案や関税撤廃交渉(農業のほか、労働、環境、食品安全など幅広い分野24分野にわたる交渉)での意見対立が残っており、12月以降も協議継続が必要との判断で、APECでは「重要分野で共通見解に至ったとの発表にとどまる」(通商筋)公算が大きいとされる。12月にマレーシアで作業部会の継続会合を開く方向で調整中とされる。すなわちまだ主張できる余地は残っている。
なんと言っても東日本大震災の惨事は、記憶に新しい。農林漁業の被害を説明し、10月中にまとめられる農業再生に向けた行動計画に沿って行動がとられることを説明すれば、各国の理解が得られないことはあるまい。なお、この行動計画は、政府の「食と農林漁業の再生実現会議」が10月8月にまとめた中間提言(水田を中心とした農業の経営規模を、いまの10倍程度の20~30ヘクタールに拡大することなどが柱)に基づく由である。以上は、読売新聞社が10月7~9日に実施した全国世論調査で、TPPに日本が参加すべきだと思う人は51%で、「参加すべきでない」23%を上回った(交渉参加の世論調査ではさらに差が大きい)こととも合致する方針だろう。(おわり)
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