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2011-10-22 18:38
カダフィの死に思う:情報化社会では独裁体制は長くは続かない
平林 博
公益財団法人 日本国際フォーラム副理事長
ついにカダフィ大佐が死んだ。リビアの独裁体制は名実ともに終焉を迎えた。人々の意識が高まったこの情報化社会では、独裁体制は長続きしないことがまた証明された。40年に及ぶカダフィ独裁は、リビア国民評議会とNATO軍の攻撃により終わっていたが、カダフィ大佐の生物的な死により、リビアの民主化運動は一応の完成を見た。「一応」というのは、今後のリビアでは、カダフィ打倒で団結していた国民評議会内部の権力闘争や部族間の対立が表面化する可能性があるからである。「創業は易し、されど治世は難し」と言うが、リビアの場合は「創業」も「易し」とはいかないであろう。リビア国民の大同団結と国際社会の支援が、今こそ必要である。それにしても、「アラブの狂人」と言われ、世界でも最も強力な独裁体制を敷いたカダフィ大佐が、戦いが始まった後はあっけなく失脚したことの歴史的教訓は大きい。
チュニジアに始まり、エジプトでうねりとなった「アラブの春」は、その後も勢いが衰えず、イエーメン、シリアに波及した。イエーメンのサレハ大統領は、ほぼ死に体である。シリアのアサド政権は益々強権と武力を発動して民衆を押さえようとしているが、カダフィ政権の崩壊により、さらに苦境に陥るであろう。「中東の春」は、中長期的にはイランや湾岸の王国・首長国に及ぶ可能性がある。勿論、イランやアラブ各国は、歴史的及び民族的・部族的背景が異なり、またその「独裁度」には濃淡がある。国民に対する対応も、千差万別だ。政権の安定度は、指導者たちが人々の願望と歴史の流れをどこまで理解し、どこまで柔軟に対応する賢明さや勇気があるかにかかっている。自由と平等などの基本的人権、平和と繁栄、格差の是正といった国民の切なる願望は、独裁体制でも抑えきれないものがある。民主主義体制では、国民の意思が反映され、政権交代も可能なので、体制そのものが崩壊する可能性は、軍事クーデタでもない限り、内在的にはない。その点、独裁体制は一見強固なように見えても、脆弱な要因を抱える。人間としての本能や願望を押さえ続けることは、この情報化社会では、長くは無理なのである。
ソ連は、1917年のボルシェビキ革命から1989年のソ連崩壊まで約70年で、共産党独裁体制が崩壊した。最近のロシアでは、プーチン大統領の下で強権政治的要素がまたぞろ頭をもたげてきたが、一度自由を知った国民は独裁体制を許さないであろう。あくまでも、民主主義体制下での「強権度」の違いということであろう。中国の共産党独裁体制は、1947年の共産党政権樹立後60有余年経ち、あちこちでほころびが見え始めた。全体は豊かになったが、都市と農村、冨者と貧者の格差は拡大し、汚職は蔓延し、モラルは低下した。地方では、民族自立を求める動きも衰えていない。筆者が、北京の日本大使館に勤務した1974年から76年にかけての文革末期は、人々は貧しかったが、富の配分には大きな格差がなく、モラルは厳しく維持されていた。「貧しきを憂えず、等しからざるを憂う」の時代であった。以来、何という大きな変化であるか。
中国の党や政府は、時代の進展に応じて外交路線や経済政策を進展させてきた。その柔軟性が中国を米国に次ぐ地位に押し上げた。その成功体験により、人々の批判や不満の「マグマ」のガスは、少しずつは抜かれてきた。しかし、自由をはじめとする基本的人権については、依然として硬直的な対応をとっている。中国国民の不満は、強まるばかりである。「アラブの春」は、すでに中国に浸透し始めている。世は、インターネットの時代であり、国際情報は、どんなにバリアを設けても、急速にすり抜けていく。国内的にも、中国国民の間でニュースや意見は瞬時に拡大する。来年は、中国でも首脳の交代があるが、政権は「アラブの春」やカダフィの死から教訓を学ぶであろうか?
北朝鮮も、政権交代を控えている。サダム・フセイン、ムバラク、カダフィは世襲政権を意図したが、いずれもみじめな結末を迎えた。アサド大統領は世襲2代目であるが、バース党政権がどうなるかに関わらず、3代の世襲はないであろう。北朝鮮の金「王朝」は、3代まで続くかどうか。カリスマどころか何の実績もない金正恩は、独裁政権が消えていくこの歴史の潮流にどうやって立ち向かって行くのであろうか。世界一の閉鎖社会といえども、北朝鮮には世界中から独裁体制崩壊のニュースが浸透していくであろう。北朝鮮が一大転換し、少なくとも中国程度に「独裁度」を落とし、国民生活の改善に優先度をおき、核を放棄することを含めて軍事体制を緩和すれば、国際社会も支援に動き、政権はサバイブする可能性がある。金親子にそれだけの賢明さがあるだろうか?なければ、北朝鮮を待っているのは、ハード・ランディングであろう。
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