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2011-10-26 08:12
普天間対応は「展望なき一手」でなく“正直”になれ
杉浦 正章
政治評論家
下手な俳句を作ると、句会で「だから、どうしたい」とやり込められる。注目の日米防衛相会談でも一川秀夫は全く同様に米側から「だから、どうしたい」と言われかねない、その場しのぎの提案をするにとどまった。環境評価書の年内提出くらいでは、とても米政府が海兵隊グアム移転予算を人質に取っている上院を説得できる材料にはなるまい。一川の窮余の「展望なき一手」は、かえって沖縄側の「頭越し」との反発を招き、普天間移設問題深刻化の度合いを深めた。
普天間基地の辺野古への移設問題のポイントは、日米双方が「極めて困難である」と理解しながらも、当面を糊塗する対応をせざるを得ないところにある。米側は普天間移設と連動する海兵隊のグアム移転について、議会上院が関連予算を凍結している現状を、いかに打開するかの問題を抱えている。しかし上院では既に「現行計画は不可能」との見方が定着しており、上院軍事委員長のレビンが国防長官・バネッタと訪日を控えて会談、計画の変更を日本政府に申し入れるよう要請している。「お互いに正直になろう、と日本側に伝えてほしい」と要望したのだ。沖縄タイムズ紙によると、レビンはワシントン市内での講演でも、沖縄県内の移設に対する強い反対、米国内での国防費削減圧力などを挙げ、実現が見通せない現行計画を「なぜ変えないのか」と疑問を呈した。その上で、「現行計画については、日米双方が問題を自覚しているのに、なぜ公式に認めることができないのか。費用がかかり過ぎる。実現は不可能だ」と表明しているのだ。
一方、鳩山由紀夫の大失政の羮(あつもの)に懲りて、膾(なます)を吹いているのが野田政権の対応だ。鳩山失政で見通しが立たなくなったにもかかわらず、日米合意に固執している。この結果、「正直になろう」という呼びかけに逆行したのが、一川の環境評価書を年内に沖縄県知事・仲井間弘多に提出するという手続き論への固執だ。評価書を提出すれば、知事は90日以内に意見書を防衛相に伝達する。その上で防衛省は辺野古埋め立ての知事への申請が可能となる。その時期は来年6月以降とみられる。政府部内には振興策なども絡めて説得すれば、仲井間も折れてくれるという期待感があるが、見通しが甘いのだ。仲井間が「ゴー」のサインを出すことはまずあり得ない。あくまで県外移設を主張し続けるものとみられる。パネッタは一川の方針に「非常に嬉しい」と述べたが、外交儀礼を喜んではいけない。
なぜなら、一川との会談でパネッタが議会への説得材料を得たかというと疑問だからだ。日本側に手続き論の上になければならない「決断」がないからだ。「決断」とは、端的に言えば日本政府が首相・野田佳彦以下、沖縄現地や国内の反対論を押し切ってでも埋め立てを強行する腹が据わっているかどうかである。そしてこの方針を極秘裏にでもパネッタに伝えたかどうかだ。しかし、首相の決断が行われた気配はなく、ましてや伝わった気配など皆無だ。会談で、一川が「速やかに海兵隊のグアム移転を」と要請したのに対し、パネッタは「グアムへの移転を進めるためには、普天間基地の代替施設の完成に向けて具体的な進展を得ることが重要である」と駄目押しをしており、まだ前哨戦の段階に過ぎない。したがって、筆者がかねてから指摘しているとおり、「手続き論」ではただのアリバイ作りと時間稼ぎにすぎないのである。
仲井間は「詳細を知り得ない」としてコメントを避けているが、環境書そのものに反発しており、「県外」の主張が変わることはあり得ない。沖縄知事が国家の安全保障を左右する事態への不満が一部に生じているが、それでは政府が全国的な広がりを見せかねない「普天間大闘争」に直結する決断をすべきだというのだろうか。古色蒼然の東西冷戦時代の頭で物事を考えてはいけない。冷戦時代だったからこそ安保闘争を押さえ込むエネルギーが政府に生じ得たのである。中国の台頭で北東アジアの情勢は厳しさを増しているが、ここで基地闘争、反米闘争の寝た子を起こすのは、愚策中の愚策だ。喜ぶのは中国と韓国だけだ。安定した日米安保体制が不可欠であるからこそ、レビンが主張しているように、頭と智恵を使って現行計画の変更をする必要があるのだ。
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