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2011-11-01 22:58
対ミャンマー制裁解除とミャンマー支援への準備を急ぐべし
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
今後十年、数十年の単位で、世界の安全保障環境を決定づける最も重要なファクターは、西太平洋からインド洋にかけての地域(アジア太平洋地域)における大国間のパワーゲームである。いうまでもなく、これは、我が国にとっても最大の安全保障上の関心事である。大国間のパワーゲームといっても、当然のことだが、「小国」の中にもカギを握る重要なプレイヤーがある。その顕著な例として、アジア太平洋地域では、ミャンマーを挙げることができよう。ミャンマーは、中国のインド洋進出にとってカギとなるからである。ミャンマーに対しては、軍事政権による人権抑圧を理由として、欧米主導で我が国も含めて経済制裁を行ってきた。しかし、このことは、ミャンマーに親中政策をとらせる結果に繋がった。中国にとって、ミャンマーを強い影響力下に置くことは、インド洋への進出を図る上で不可欠なことである。
しかし、最近、ミャンマー政治には、民主化と中国離れという二つの大きな流れを見てとることができる。現在のミャンマー政府は、不完全とはいえ、選挙に基づくものである。そして、政治犯の大量釈放を行ったり、アウン・サン・スー・チー女史が事実上率いる国民民主連合(NLD)を合法化する方針を示すなど、過去の軍事政権とは一線を画している。スー・チー女史は、欧米ではミャンマー民主化のヒロイン的存在であるが、彼女は、ミャンマーの変革は進んでいると言っている。欧米が対ミャンマー制裁を解除できる状況は、かなり整いつつあるといえる。米国の論説などでも、対ミャンマー強硬策一辺倒に異を唱えるようなものが現われてきている。
ミャンマーの対中姿勢では、9月末に、セイン大統領が、中国がミャンマー北部に建設中であった水力発電用の大型ダムの開発を中止すると表明したことが目を引く。このダム建設は、軍事政権時代に決定されたものだが、発電した電気はその9割を中国雲南省に送る計画であった。すなわち、ミャンマー国民には何ら裨益するところがなく、環境破壊などを理由に反対論が高まるに至っていた。中国のあまりにも自己中心的なやり方が、ミャンマーの離反の契機となりつつあるということである。ミャンマーの政治的変革は、制裁解除により外国からの投資を呼び込み、対中依存を減じる意図があると推測される。これは、制裁を解除する好機であり、逃すべきではない。我が国は、これまで、欧米に半ば無理やり同調させられるような形でミャンマー制裁に加わってきた。しかし、上述の通り、ミャンマー制裁解除の条件は整いつつあり、それは、戦略的にも適切なことであるから、日米間での重要な協議事項とすべきである。本来、我が国は、ミャンマーの戦略的重要性を説いて、米国を説得すべき立場にある。
インドもアジア太平洋地域におけるパワーゲームのプレイヤーたる大国である。これまで、ミャンマーは、中国による、いわゆる「真珠の首飾り戦略」の一角を担う存在であり、インドにとって脅威であった。しかし、インドは、最近、ミャンマー政府との対話を始めている。我が国は、対ミャンマー政策で、是非ともインドを含めた協議の場を持つべきである。名目は、ミャンマーの「民主化支援」(現政権の民主的正当性を認め支援する意)でも、海上交通の安全確保に関する協力でも、何でも構わない。日本とインドがこのような動きに出れば、米国の姿勢を変えさせることに繋がるかもしれない。もちろん、日印関係の強化にも繋がるであろう。このまま無為無策のまま過ごすと、ミャンマーへの制裁解除と援助において、我が国は追随的立場に置かれることになる。それでは、ミャンマーに主体的に関わる機会が損なわれてしまう。せっかく支援をするのならば、先導的立場に立つに越したことはない。早急に、対ミャンマー制裁解除とミャンマー支援に向けた準備を急ぐ必要がある。
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