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2011-11-09 06:56
「マルチ山岡」が政権の“アリの一穴”に
杉浦 正章
政治評論家
どんな名優も及ばないような悪役ぶりを衆院予算委員会で演じるのが「マルチ山岡」こと国家公安委員長・山岡賢次(消費者担当相)だ。自民党・平沢勝栄の質問が自分に回ると、憎々しげな風貌をあらわにして、「ようやく発言のチャンスを与えていただいた」と、自信に満ちた様子で答弁に及んだ。ところが山岡が秘書に「マルチで稼げ」と指示した新事実が暴露されると、一転してして顔色が変わり、平沢に「秘書名を教えよ」と懇願。どうみてもマルチ疑惑は浮き彫りにされた。問責決議可決へ向けての環境が整備される流れとなった。しかし、予算委の野党質問は、自民党新政調会長・茂木敏充らのかったるい追及を見ていて、欠伸が止まらなかった。追及材料が山積しているにもかかわらず、茂木はピントを外して、重箱の隅を突きまくり、前政調会長・石破茂に比べると、格段に追及力、破壊力の欠如が見られた。総裁・谷垣禎一の人事の失敗を露呈させるものだろう。
ところが平沢の質問に移ると目が覚めた。さすがに「閣僚の資質の欠陥」を調査するチームを設置し、対策を練ってきただけあって、山岡が真っ青になるところまで追い詰めた。白眉は、平成16年の秘書への指示。平沢によると、山岡は「事務所経費が大変なので、マルチで稼いでくれ」と指示したというのだ。平沢は元秘書に会って話を聞いたものだという。山岡の反応は、うろたえたと言ってもよいものであった。最初は「名誉毀損だ」と居丈高に反応した。これには驚いた。国対委員長経験者たる者が、憲法51条にある国会議員の免責特権も知らないということになる。国会議員は国会で行った演説、討論の責任を院外では問われないのだ。平沢が二の矢を継いで、山岡と事務所関係者らの証人喚問を求めると、急に薄気味悪いくらいの低姿勢になって、平沢に「長い付き合いだ。友情をもって、誰が言ったかを教えてほしい」と懇願。テレビで中継されている場を、まるで料亭の一室と間違えているような答弁に、平沢の方が戸惑った。
さらにマルチ企業で講演した問題では、山岡は「何の会でどんな趣旨かは知らなかった」と述べたが、これはすぐにうそがばれる答弁だ。ネットには講演の映像が流布されており、始めから終わりまで「マルチの勧め」で一貫しているからだ。また『週刊新潮』を名誉毀損で訴えて、その後請求放棄して事実上の敗訴になった問題について追及されると、「国対委員長で多忙なため、関わっていられなかった」と弁明。すかさず平沢に「国対委員長がマルチの会で演説する時間があっても、裁判所に行く時間がないのか」ととどめを刺されて、「ケースバイケース」などと苦しい答弁に終始した。この山岡追及の位置づけは、野田の「適材適所で人材を配置した」という発言と、あまりにもずれていることを浮かび上がらせるものであり、政権にとっては痛手だ。「ネズミ小僧を火付け盗賊改め方に任命したようなものだ」(自民党幹部)は、いささかきついが、似ていなくもない。
与野党は復興のための所得増税を25年間とすることで一致、第3次補正予算案の成立にめどがつき、大震災が取り持つ“疑似協調路線”は終わりを告げた。今後は早期解散に向けての対決が基調となるが、山岡問題は政権の“アリの一穴”となり得る。その「一穴」を拡大するために、自民党は山岡と秘書らの証人喚問で、さらにマルチ疑惑を露呈させたうえで、参院での問責決議可決を戦略に描く。過去に問責決議が可決された首相、閣僚は5人いるが、いずれも遅かれ早かれ辞任または配置転換となっている。昨年末官房長官・仙谷由人と国交相・馬淵澄夫への問責決議が可決された際も、首相・菅直人は結局改造して二人を閣僚から外した。問責は法的拘束力がないが、参院がねじれで動かなくなるのである。おそらく臨時国会会期末での問責を想定しているのだろうが、可決しても山岡が辞任しなければ、かえって野党に有利となる。問題を通常国会冒頭まで引きずることが可能となるからだ。通常国会での辞任となれば、自公両党が狙う早期国会解散への足場ができることになる。
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