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2011-11-28 11:40
イエメン情勢を見る観点
水口 章
敬愛大学国際学部教授
チュニジア、エジプト、リビアに次いでイエメンでも、11月23日、市民の活動による政権交代が起きることがほぼ確定しはじめている。また、エジプトではシャラフ暫定首相が11月21日に、市民活動によって辞意を表明した。その他、シリア、バーレーンでも、統治者に対し市民の抗議活動が続いている。そこで、この共鳴する市民の意識連帯について、以下に見ていきたい。
仮に、この一連の抗議活動に参加している市民に、「社会の構成員として、何がふさわしい行為といえるのか」と、問いかけた場合、従来とは異なる答えが返ってくるのではないだろうか。活動参加者たちは、イスラム社会、アラブ社会よりも身近なコミュニティにより強い帰属意識を持ち、それぞれが生活している空間における「公正」や「公平」を行動基準として動いているように思われる。当然ながら、政治変動が起きている国や地域によって人々が社会化される過程が異なっているため、活動に参加している人々の行動基準は多様だと言えるだろう。それにもかかわらず、政治変動が起きているアラブ各地の行動パターンが類似しているように見えるのは、ソーシャルメディアを通じて、情報の共有性が高まっていること及び各地の出来事が相互に影響しあっているからだと考えられる。ある場所で、人々の思考と行動を縛っている社会的檻を超える行動が起きたという情報が伝達されると、他の場所の人々の中に、自分たちも行動することが可能だという意識を生み出していると言えそうだ。
こうしたことを念頭に、イエメンをみてみよう。同国のサレハ大統領は、11月23日、サウジアラビアの首都リヤドで、今年4月に湾岸協力会議(GCC)諸国が提案した仲介案に署名した。また、イエメンの野党連合(合同フォーラム)もこれに署名している。そして、合意文書では、サレハ大統領は権限を委譲し、名誉大統領になることになっている。しかし、国外(一説では米国)での療養生活を行う蓋然性が高い。この動きは、これまでのチュニジア、エジプト、リビアとは異なっている。市民活動家の一部には、仲介案にあるサレハ大統領への訴追免除に反対し、デモ行動を続ける動きもある。しかし、同国の部族社会のコミュニティにおいて、合意(イジュマー)、契約という行為はそこに生きる人々が守ろうとしている規範である。また、今回の合意形成の国際要因であるGCC諸国からの資金支援や米国の関与は、合意順守のバインド効果を高めると考えられる。イエメンが抱える「アラビア半島のアルカイダ」の存在や、南北地域間の対立という不安材料が、サウジアラビアと米国をイエメンへの積極的関与へと動かした。しかし、抵抗活動を行っている市民の側は、そうした国際要因を梃子として、イエメン社会の既存の規範が身近なコミュニティで守られるような選択をするのではないだろうか。
一方、エジプトでは、軍が自らの権限と利権の拡大を憲法改正によって図ろうとしたことで、コミュニティの利益が脅かされると考えた市民が再び抵抗活動を活発化させている。したがって、軍がその方向性を修正しない限り、市民の不満は積もっていくだろう。この観点からすると、今後のエジプト情勢を見るにあたっては、やはり軍の内部の対立に注目しなければならない。アラブ諸国の政治変動において、仮に、国境を越えた市民の連帯意識が形成されていると見るならば、各コミュニティの行動基準は異なるものの、「公正」「公平」を求める意識ではないだろうか。そうだとすれば、その連帯意識は、ニューヨークやロンドンで行動している市民にも広がっているのかもしれない。
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