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2011-12-12 17:28
アメリカの宗教事情からみた大統領選挙の行方
中岡 望
ジャーナリスト、国際基督教大非常勤講師
宗教が初めて大統領選挙の大きな焦点になったのは、1959年の大統領選挙である。民主党のジョン・F・ケネディ候補はカトリック教徒であった。当時、世論調査では国民の25%はカトリック教徒の大統領に投票しないと答えていた。同じ宗教問題が2012年の大統領選挙のテーマとなりそうだ。現在、共和党の大統領候補者で先行しているのがミット・ロムニー元マサチューセッツ知事であるが、同氏はモルモン教徒である。また、同様に共和党の大統領候補指名を目指すジョン・ハンツマン元ユタ州知事もモルモン教徒である。アメリカ人の大半はモルモン教をキリスト教の正式な宗派とは見なしていない。その意味では同じキリスト教のプロテスタントかカトリックかという選択よりも、さらに厳しい選択を迫られることになるだろう。本年6月中旬に行われたギャラップの世論調査では、回答者の22%がモルモン教徒の大統領候補には投票しないと答えている。党派別で見ると、共和党支持者の18%、無党派の19%、民主党の27%がモルモン教との大統領候補には投票しないと答えている。民主党支持者の方がモルモン教に対する抵抗が強いのは興味深い。
同月に行われたピュー・リサーチの調査では回答者の68%がモルモン教徒の候補者に投票するのに躊躇すると答え、25%が投票しないと答えている。こうした調査を受け、ロサンジェルス・タイムズ紙は「モルモン教に対する偏見がアメリカ政治の重要な要素になっている」(6月21日)と指摘している。アメリカで宗教組織が積極的に政治活動を始めるようになったのが1970年代である。リベラリズムの過剰を懸念した保守派のプロテスタントがリベラル派批判を始め、社会的道徳の回復を訴えた。その最初の組織が保守派プロテスタントの「モラル・マジョリティ(道徳的多数派)」で、1980年の大統領選挙でレーガン政権誕生を資金面で支援した。モラル・マジョリティの解散後、さらに「クリスチャン・コーリション(キリスト教同盟)」が結成され保守派の大スポンサーとなる。1990年の大統領選挙で共和党のジョージ・ブッシュ候補を当選させたのはクリスチャン・コーリションの資金力であったと言われている。
宗教票が選挙結果を決めたのが2004年の選挙である。ブッシュ大統領とジョン・ケリー民主党大統領候補が争った同選挙では、イラク戦争と並んで大きな選挙テーマとなったのが同性婚の問題であった。ヒスパニック系アメリカ人は民主党支持者が多いが、同時に彼らはカトリック教徒でもあり、宗教上の理由から同性婚に対して批判的である。多くのカトリック教徒のヒスパニック系アメリカ人はブッシュ大統領に投票し、ブッシュ大統領の大勝の原動力となった。同性婚や中絶、再生細胞の研究など宗教色の強いテーマを巡る論争は“文化戦争”と呼ばれている。オバマ大統領は就任演説の中で、もう文化戦争を止め、政治の二極化に終止符を打つべきだと主張した。しかし、こうした宗教的、社会的問題は依然としてアメリカ社会では重要な問題である。現在のところ、2012年の選挙では経済問題が最大テーマになると予想されている。しかし、共和党候補者は折に触れ民主党に文化戦争を仕掛ける構えを見せている。保守派のエバンジェリカルやカトリック教徒を味方に付け最もてっとり早い選挙戦略であることは間違いない。
牧師であるマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事が大統領予備選挙の立候補を取りやめたため、文化戦争の仕掛け手になると予想されるのが、キリスト教右派の立場からオバマ大統領を批判するミシェル・バックマン下院議員やサラ・ペイリン元アラスカ州知事である。大統領選挙で保守派のキリスト教徒を動員できるかどうかが選挙結果に大きな影響を与えることになる。同時にティーパーティ運動も単なる財政保守主義の立場を逸脱し、社会的保守主義者の色合いを全面に出しつつある。こうした保守層の動向が共和党の大統領候補選びに大きな影響を与えることになるだろう。
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