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2011-12-19 11:13
パキスタンの反欧米感情のヒートアップ
川上 高司
拓殖大学教授
11月26日土曜日、まだ夜が明けやらぬ静寂な時を破り上空のヘリコプターが猛烈な砲火を地上に浴びせた。標的はパキスタンとアフガニスタン国境近くのムハマンド部族地帯にある、パキスタン軍の詰所だった。ヘリコプターはNATO軍の軍事作戦で出撃したものでこの攻撃によって25人という多数のパキスタン兵士が死亡、パキスタンは国を挙げて激怒し反米感情がさらに高まっている。
NATOは誤爆であると認めたが、パキスタン軍のキヤニ参謀長は許し難い行為だとし、「次は黙って見ていない。やるべきことをやる」と軍事的な迎撃をほのめかしている。パキスタンでは軍部の力が強いだけに、軍を怒らせたら大変危険である。そもそも5月のオサマ・ビン・ラデインの襲撃以来アメリカとパキスタン軍との関係は最悪となっており、今回の誤爆はその険悪な関係をさらに悪化させただけの「追い打ち」となってしまったのである。
パキスタンはアフガニスタンへのパキスタン経由の補給ルートを閉鎖し、バロシェスタンにある米軍所有の無人爆撃機のための基地から米軍を撤退させた。そしてボンで開かれたアフガニスタン会議にもパキスタンは欠席して抗議の意志を表明した。だがそれだけではない。パキスタンは防空システムをアフガニスタンとの国境に配備して越境してくる航空機を追跡・迎撃する体制を整えた。これは明らかにアフガニスタンから越境してくる米軍の爆撃機を想定している。パキスタンは本気である。
これまでにもパキスタン兵士がアメリカの空爆に巻き込まれて犠牲になったことはあった。そのときやはり補給ルートを閉鎖してパキスタン軍は報復したが、それでも今回ほど深刻な外交問題には発展しなかった。2014年にアメリカはアフガニスタンから撤退する予定であるし、アフガニスタンの行く末を左右するのはパキスタンである。パキスタンとの関係悪化はアフガニスタンの政情を大きく揺さぶり、アフガン撤退のシナリオにも大きく影響する。他国の領土での傍若無人な振る舞いのツケは大きいのである。
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