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2011-12-28 18:37
中東地域での「国づくり」の難しさ
水口 章
敬愛大学国際学部教授
今年も残すところ僅かとなった。振り返ってみれば、中東地域では各国が「国のかたち」を問い直す年になったと言えそうだ。シリアでは3月に市民の抗議活動が表面化してから、約5000人を超える死者が出ているが、依然として鎮静化の兆しは見えてこない。12月23日には治安機関を標的とする2件の自爆テロが起きるなど、新しい局面も見られている。また、エジプトでも治安部隊がデモ参加女性に暴力を振るっている映像が流れたことで、軍への抗議デモが再燃、増加している。2010年12月17日にチュニジアで果物売りの青年が焼身自殺をしたことを契機にアラブ地域に広がった市民による社会運動は、1年が経過した今も継続している。これまで社会運動が継続性している要因として、多くの人々が双方向でコミュニケーションがとれる通信システムが普及したことが大きいといえるのではないだろうか。
おそらく、かつて旧ソ連圏、東アジア、中南米で起きた独裁政権を打倒してきた運動に比して、市民活動家たちのネットワーク化が急速に進んだことは確かだろう。それにより、多様な人々が運動に参加することになった。しかし皮肉なことに、多様な人々の参加したことが政権打倒後の国づくりを難しくしていることも確かである。したがって、アラブ世界では市民による抗議運動が2012年に入っても鎮静化に向かう蓋然性は低いのではないだろうか。おそらく、補助金や公務員の雇用枠を拡大して市民活動を一端は下火に向かわせた産油国などでも、石油収入の分配の不公平や縮小が見られた場合、市民の抗議活動が再燃する蓋然性が高い。
国づくりの難しさはイラクでも見てとれる。同国では、2003年3月からの国際介入から今日までで、10万人以上のイラク人が死亡し、米軍も4500人以上の死者を出している。この12月に米軍の撤退は終了したが、国民融和には依然課題が残っている。特に、シーア派、スンニ派に分かれた利益集団間の対立はくすぶり続け、現在は、統治体制内におけるハシミ副大統領(スンニ派)対マリキ首相(シーア派)の構図となって表れている。
さらにイラク問題では、イランの核開発問題で経済制裁を強める米国に対し、イラク内のシーア派と強い結びつきを築いているイランの影が濃くなっている。このため、今後のイラクの国づくりの進展は、米国・イランの緊張関係がどうなるかが重要なポイントとなってくるだろう。こうして見ていくと、2012年の中東地域が安定化に向かう蓋然性は低い。そのことと、米国、フランスなどの大統領選挙およびその結果がどのようにかかわってくるのか、注視する必要があるだろう。
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