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2012-01-27 06:49
「強弁谷垣」対「詭弁野田」は、大局観で野田の勝ち
杉浦 正章
政治評論家
消費税国会は抜き差しならぬ与野党党首のガチンコ勝負で幕を開けた。代表質問での応酬は「強弁谷垣」対「詭弁野田(きべん)」の戦いであった。もっとも、何が何でも「解散・総選挙」に結びつけようとする自民党総裁・谷垣禎一が、大局を理路整然と見誤っている分だけ、首相・野田佳彦に歩があった。7対3で野田が勝った感じだ。総じて谷垣の質問は大局観に欠け、重箱の隅を突っつく枝葉末節型に終始した。谷垣は約40分間の質問のほとんどを「社会保障と税の一体改革」に費やし、民主党の「マニフェスト違反」の指摘を9回も繰り返した。議会の同意がない国王の課税を禁じた英国の大憲章・マグナカルタまで持ち出して追及。「マニフェスト違反でないという弁明を真に受け止める有権者は皆無」と決めつけた。明らかに政局化を意識して、はやりにはやる姿勢だった。谷垣のマニフェスト違反の指摘は、確かにもっともだが、もっともすぎて食傷気味になることも否定出来ない。もう国民は民主党のマニフェストが破たんしていることは十分承知であり、谷垣のように石を見て「これは石だ」と指摘されても、「またか」と思うだけだ。マニフェスト違反は有権者の選挙判断に委ねてしかるべきであろう。
そしてなぜ谷垣が理路整然と間違っているかといえば、消費増税問題の根幹を見れば、歴代自民党政権が1000兆円にものぼる借金を作ったことに大半の責任がある。それゆえに先の参院選挙で10%増税への選挙公約を掲げたのは自民党自身ではなかったか。むしろ自民党は自ら消費増税法案を議員立法で国会に提出して、国民にその是非を問うくらいの姿勢があってもおかしくない。自分が主張すれば正しくて、現政権が主張すれば「マニフェスト違反」と非難する。この矛盾の“急所”がある限り谷垣は何を言っても、「政局化」のそしりを受けて当然なのだ。マグナカルタも国王の恣意的な課税を禁じたのであり、むしろ議会が課税権を獲得したのだ。増税不可避の認識では議会が事実上一致しているのだから、ここを推進のチャンスととらえるべきなのだ。いくら「マニフェスト違反は明らかだ。民主党政権に提出の権限は与えられていない」と谷垣が声高に断定しても、うつろに響くだけだ。手続き論にこだわり過ぎて、決定打に欠けた代表質問だった。
一方野田の答弁も重要ポイントで矛盾撞着が見られる。「マニフェスト違反でない」とする根拠について「消費税の第一段の引き上げは、2014年4月であり、これは現在の衆院議員の任期終了後であり、国民に対する裏切りという指摘は当たらない」とした。任期は2013年8月29日だから「任期中は引き上げを行わない」と言う公約に違反しないというのである。しかし、これはまぎれもない詭弁だ。有権者は「4年の任期中に引き上げない」を実施時期と受け取っただろうか。そうではあるまい。むしろ言葉通りに民主党が4年間は引き上げる「行動に出ない」と受け取ったはずだ。あきらかに有権者に対する裏切りだ。野田はこの場面では率直に公約違反を認め、陳謝した上で、増税の必要を説く謙虚さが必要だった。
初戦から激突の火花が散った形だが、なりふり構わぬ谷垣の解散追い込み路線は揺らぐことはあるまい。党内的にも落選組に突き上げられて、ここで解散を勝ち取らなければ、自らの立場を危うくする。一方で野田の「やり抜くべきことをやり抜いたうえで国民の判断を仰ぎたい」という姿勢は、解散・総選挙を消費増税の関連法案成立後に設定していることになる。このままでは消費増税法案どころか、予算関連法案の成立も危惧(きぐ)される事態だ。内閣不信任案や問責決議案も俎上(そじょう)に上るだろう。こうしてまさに「視界ゼロ」の激突から何が生まれるかだが、焦点は舞台裏がどう動くかに絞られてくるだろう。自民党側は元首相・森喜朗、副総裁・大島理森、民主党側は政策調査会長代行・仙谷由人、副総理・岡田克也ら表だって目立っていない面々が、その人脈を通じて落としどころを「話し合い解散」に置いて動くであろうことは、十分に予想されるところだ。
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