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2012-01-29 08:59
日本国際フォーラムの意見広告(政策提言)にコメントする
吉田 重信
日中関係研究所主幹
1月27日付けの主要紙に一斉に掲載された「膨張する中国と日本の対応」と題する日本国際フォーラムの意見広告(政策提言)について、中国研究究者の端くれとしてコメントする。結論から言って、本政策提言は概ね妥当であり、時宜にかなっている。目下日本が直面している最大の課題は「膨張する中国にいかに対応するか」であることは自明だからである。しかし、重大な視点が欠落している。つまり、日本の対中政策は、対米政策とも密接に関係していて、表裏一体であるので、日本の対米政策も同時に検討する必要がある。戦前、日本は軍事的に中国に進出し、これに対して米国が日本軍の中国からの全面撤退を迫った結果、日本はやむを得ずに対米戦争に踏み切った。結果は、中国を含む「連合国」に日本は無残にも屈したのである。
本政策提言は、おおむね米国の対中国政策に沿っているが、重要な事実を見逃している。つまり、米国はふたたび中国と「同盟関係」に入る恐れがあるということだ。1971年、秘密裏に訪中したキッシンジャー特使は、相手の周恩来首相が「日本の潜在的脅威」を説いたのに対し、何と答えたか。キッシンジャーは「日本は情緒不安定な国であり、信用できない。だから、米国は日米安保条約のビンのなかに日本を閉じ込めて、フタをしている」と答えたのである(「キッシンジャー秘録」)。むしろ米国は、日本にとって「信用できない同盟国」であるのだ。駐米大使であった朝海浩一郎氏は「ワシントン滞在中の悪夢は、ある日突然米国が中国を承認すると通告してくることだった」と述懐している。その悪夢は、1971年の電撃的な「米中接近」により現実化した。その後、米中関係は日本が想像する以上に密接であることを忘れてはならない。これまで米政府は駐北京大使として大統領にもっとも近い、超一流の人材(例えば、大統領就任前のブッシュ氏)を派遣している。現在の米国の駐北京大使は、なんと元閣僚で中国系アメリカ人のギャリー・フェイ・ロック(中国名:酪家輝)氏である。これに対比して、現在の駐北京日本大使は、商社マンとしては有能であったかもしれないが、外交にはド素人である。このような日本外交の手薄さを如何に補強するかについて、フォーラムは提言すべきであった。
要するに、米中両国は、第二次大戦中に「同盟国」として日独両国を相手に戦ったという記憶を共有しており、今でも事実上の同盟関係が存続しているといえる。勿論、米国は中国共産党を信用してはいない。米国の対中政策を一言で言えば「中国を友人とするか、敵とするかは、こちらの出方次第である」に尽きる。その意味するところは「米国は中国を友人とする」ということだ。これが米国の「関与政策」の中身である。言い換えれば、米国は今後の国際情勢の如何によっては、日本を裏切り、台湾を放棄し、その関連で沖縄の米軍基地を放棄することもありうるのである。このような悪夢再来の事態に備えるには、徒に米国に追随するのではなく、むしろ英国やフランスのように独自の対中国政策を練り直す必要があるのではないか。
最後に、本政策提言は、ロシアの動きを考察していない。もはや中ロ間にはかつてのような激しい対立はなく、むしろ両国はかつての「中ソ同盟」関係の復活に向かっており、将来、双方が結託して日本を攻略してくることも大いにありうる。このような事態に日本は如何に対処すべきかについて、提言は触れていない。なお、筆者の研究所では、日米中関係を動態的な「三角形関係」(dynamic triangle relationship)として捉えており、その研究成果を近く出版する予定である。
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