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2012-02-14 06:54
龍馬も怒る維新の会の「船中愚策」
杉浦 正章
政治評論家
「船中八策」と銘打って打ち出すというからどんなに斬新な政策かと思ったが、何のことはない、実現不能な「船中愚策」だ。坂本龍馬も「馬鹿にするな」と怒る。それも、柱が首相公選制や、一院制では、元首相・中曽根康弘や都知事・石原慎太郎の顔が浮かんで、仏壇からはたきを掛けて取り出したような古くささを感じる。憲法改正が不可欠であり、しょせんは机上の空論となる。掛け捨て年金制度も、大幅な資産課税も、憲法の財産権に抵触しかねない。民主党のマニフェストは、有権者をだましただけあって「知能犯」だったが、大阪維新の会の衆院選公約は「粗暴犯」で、これで風が吹くようでは、またまた有権者のガバナビリティー(被統治能力)が問われる。大阪維新の会は「維新政治塾」への応募者が最終集計で3326人だったと発表した。大阪人らしいのは「少数精鋭でいく」と言っていた市長・橋下徹が「12万円は大きい」「日本も捨てたものでもない」ともろ手を挙げて歓迎。単純計算でも、年間受講料12万円かける3326人で、4億円の実入りになる方を勘定高く選ぶらしい。難破船から逃げ出すように、民主党の衆院議員・高橋昭一(兵庫4区)が願書を出したが、維新の会は断った。入会希望の議員は数人いると言われるが、行動に出る国会議員が予想外に少ないのは、まだ見極めがつかないのだろう。小沢チルドレンも小沢一郎の締め付けがきついに違いない。
その維新の会の選挙公約だが、どうも石原の影響があるような気がしてならない。首相公選も、一院制も、石原がかねてから主張してきたところだし、手あかに汚れていて新鮮味などない。まず首相公選は、若いころの中曽根が主張したもので、小泉純一郎も首相時代に懇談会までつくって検討した。いずれも国民的人気のある政治家が、公選なら首相になりやすいという発想で検討を進めたことになる。自民、民主両党とも党員参加による党首選出を採用しているが、これも首相公選論の「名残り」だ。公選論は首相と国民統合の象徴である天皇との関係が問題点として指摘され、また首相の所属政党と議会の多数政党が異なるねじれ現象が常態化する可能性があることなどマイナス面が多く、盛りあがらないままお蔵入り状態となっている。橋下は「現行法のままで実現できる首相公選がないか」と述べているが、ないわけではない。野党第一党と与党第一党が、党首選出手続きを国民一般に開かれたものにする案だ。事実上の首相公選だが、民主、自民両党ともやりそうもない。結局、改憲が必要となり不可能だ。
一院制も古い。確かに緑風会に代表される戦後の一時期と違って、参院の政党化は著しく、「衆議院のカーボンコピー」化は事実だ。この参議院不要論は古くからの自民党のおはこであった。与党時代の自民党は、参院で伯仲国会やねじれ国会になれば不要論を唱え、逆に参院で過半数または安定多数になれば不要論を唱えなくなる傾向が目立った。その古い不要論を、橋下が唱えて実現性があるかといえば、ゼロだ。これも改憲が必要だからだ。橋下の一院制の主張からは、問答無用の全体主義的発想が背景にあるような気がする。公約は年金制度について、現役世代がまかなう現行の「賦課方式」から「積み立て方式」への変更が眼目だ。橋下はこれをさらに進めて「掛け捨て方式」を主張している。「資産をもった人には年金を払わない」のだと言うが、荒唐無稽だ。最初から制度が成り立たない。一種の強制貯蓄をさせておいて、これを取り上げれば憲法の財産権に抵触しかねないし、だいいち年金を納める意欲が失せる。公約は概して大ざっぱすぎて、焦点の問題を避けて通っているように見える。とりわけ普天間移設など、外交・安保上の喫緊の課題がなおざりにされている。唯一具体的な消費税導入と環太平洋経済連携協定(TPP)参加も、民主党と一体どこが違うのか。
なぜあえて不可能なものを柱に据えたのかと言えば、石原の助言または調整があったのだろう。橋下が自らの国政転向を否定していることと考え合わせると、水面下で石原新党がうごめいているのかも知れない。しかし、石原政治路線は「核武装」まで行くことが分かっていない。そろそろ有権者は、維新の会がもくろむような「風の政治」から、離脱すべき時ではないか。最新の世論調査は維新の会への期待値が高いが、公約が出される前の調査だ。有権者は今度こそ公約をしっかり研究することだ。民主党マニフェストにだまされて、最低保障年金はもらえず、子ども手当は撤回され、高速道路も無料にならない。日本は民主党政権で空白の3年間を作ってしまった。こんどは地方の国政を知らない政治家がタレント的な人気があるといって、海のものとも山のものとも知れぬ“維新チルドレン”を大量につくって、国政を混乱させてよいのか。もう国家にそのゆとりはないのではないか。
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