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2012-02-21 09:37
米軍再編における費用負担を日米間の紛争事項にするな
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
在沖海兵隊のグアム移転をめぐる米軍再編は、普天間移設を切り離して、海兵隊のグアム移転を先行させるとともに、グアムに移転する予定であった8,000人を4,700人程度に圧縮し、残りを、豪州、ハワイ、フィリピンなどのアジア太平洋地域にローテーション方式で分散配置する方向で見直されることになった。このこと自体は、一つのやり方として、合理性を持つものである。ところが、日米間の費用の分担をめぐって紛糾しそうな気配が出てきている。これは、憂慮すべき事態である。2006年の合意では、米軍のグアム移転にかかる費用は、日本側が約61億ドル、米国側が約42億ドルを分担するというものであった。この日本側分担費用の金額を維持するよう、米国側は強く希望している。パネッタ国防長官は、「日本は多くの資金を出してくれるだろう」と明言している。
これに対して、日本側には、グアムに移転する人員が約6割に減るのだから、日本側分担費用もその分だけ減額せよという声が強い。まず、グアムに関してだが、8,000人移転を4,700人規模に圧縮したからといって、必要なインフラが同じ割合で縮小されるわけではない。グアム以外へのローテーションによる分散配置にも当然費用はかかる。そして、日本側は、グアム移転を沖縄の負担軽減という文脈に強く位置づけてきた。それならば、行き先がグアムではなくなっても、日本側が相応の負担をすべきという理屈になる。これは、我が国が、米軍再編を、あまりにも沖縄の負担軽減という観点に矮小化してきたツケが回ってきたとも言える。もちろん、米国政府の対応は、議会対応という内向きな面にとらわれるあまり、いささか配慮を欠いている。
一方で、我が国政府は、61億ドルの分担費用を大幅に減額するのは理屈に適っていないのだから、そういうことを強く主張して、日本国民に期待を抱かせるべきではない。「普天間の移設先は少なくとも県外」と言った過ちと、構図は全く同じことになる。そんなことをして日本国内の反米感情を高めることになれば、元も子もない。アジア太平洋地域における米軍再編は、日米2国間の問題ではないのだから、高い見地から考えるのがよい。すなわち、今回の見直しは、地域全体における米軍の抑止力を高めるものである。したがって、我が国は、地域の平和と安全に貢献し投資するという意味で、費用を分担すればよい。とりわけ、フィリピンへの海兵隊配備が決まれば、是非、財政的支援をすべきである。
豪州への配備にかかる費用もある程度負担して構わない。もちろん、費用の入念な再計算は必要になってくるが、以上のようにすれば、自然と当初の予定通りの金額程度になるのではないかと思う。また、森本敏氏が指摘しているように、グアムを拠点に日米豪や東南アジア諸国を加えた多国間演習の費用に充てるというのも一案である。我が国が応分の金銭的負担をすることは、決して無意味なことではなく、まして「米国に貢ぐ」などということにはならない。いずれにしても、この問題は、取り扱いを極めて慎重にする必要がある。我が国が、防衛費の大幅増額をしていれば話は変わってくるが、安全保障環境を全く無視して、むしろ漸減を続けているのだから、到底交渉にならない。当初予定の約61億ドルを超えさえしなければよしとすべきではないだろうか。
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