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2012-02-22 06:54
「新党」で「いつか来た道」を繰り返すな
杉浦 正章
政治評論家
みのもんたに代表される民放テレビの浅薄なセンセーショナリズムと国政批判によって、既成政党は「悪」であるという概念が有権者に定着し、これが大阪維新の会に「風」を吹かせている。維新の会は、何と改憲が必要な統治システムの改革を唱え、独裁的な政治手法の指導者が国政に乗り出す機会を窺っている。既成政党はなすすべを知らずに、卑しげな秋波を送り続けている。歴史は繰り返すというが、まさに政友会と民政党の不毛の対立が軍部独裁を招き、国を滅ぼした「いつか来た道」の危うさがそこにある。既成政党を褒めるのはマスコミのタブーのようになっている。批判することが日本のインテリのレーゾンデートルであるかのようである。ちゃんちゃらおかしいと言いたい。大衆にこびを売り、正義の味方とばかりに、みのもんた風の司会者が朝から晩まで政党の“ていたらく”だけを誇大に伝え、批判し続け、忙しい有権者は、そんなものかという思考が定着する。戦後の日本の政党政治はそんなに悪かったのだろうか。
ここは世界的視野から日本の立ち位置を俯瞰(ふかん)する必要がある。例を挙げれば、米国の“本音”が「日本の失敗という神話」と題して、ニューヨークタイムズのオピニオン欄に載った。「日本が今やとても意気消沈した国になってしまい、本当に後退してしまったというように描き出すのは、神話というものだ」で始まって、日本の隆盛ぶりを語っている。日本人の平均寿命は、1989年から2009年にかけて4.2歳も伸び、アメリカ人より4.8歳も長生きである。インターネットのインフラ構築で著しい進歩があり、最速のネット・サービスが享受できる世界の50都市中、日本の都市は38もあったのに対して、アメリカの都市はたった3つだけ。1989年末を基準にすると、円は米ドルに対して87%、英ポンドに対して94%も上昇した。失業率は4.2%で、アメリカの約半分である。500フィート以上の高層ビルは、「失われた数十年」開始以降、81棟が東京で建設された。それに対して、ニューヨークでは64棟。といった具合である。
日本の繁栄を羨望のまなざしで見る論調で貫かれているのである。この視点は、金融危機に直面する欧州や発展途上のアジア諸国からみれば共通する側面があり、それをもたらした日本の戦後政治は、少なくともみのもんたが朝から晩まで批判するようなものではあるまい。「駄目」と言わなければ視聴率を稼げない、自虐趣味でなければ有識者とみなされないような民放テレビの政治報道は、すべてを短絡させて伝達し、やはりタレント出身の大阪市長・橋下徹の政治手法に大きな影響を与えているかに見える。橋下が「船中八策」で唱える首相公選と参院無用論は、戦後営々として築いてきた議会制度システムを根本から変えようとするものに他ならない。橋下がなぜそれを唱えるかと言えば、自分の政治手法にもっともマッチしたシステムであるからだ。たちが悪いのは、自らは国政に立候補せずに、裏でコントロールしようという意図がありありと見えることだ。公選首相なら独断的政治手法を自由に駆使しやすい上に、ねじれで政治が遅滞する参院がなければ、法案処理も速まる。朝日川柳に「独裁に賭けたくもなる閉塞(へいそく)感」があった。気持ちは分かるが、政治とは我慢の連続である。ガバナンス(統治)の側も、ガバナビリティ(被統治能力)の側も、忍耐が不可欠だ。
中国のことわざに「国を治むるは田を鎒(くさぎ)るごとし」がある。政治は田の雑草を取り除くような地味な作業の繰り返しであるというのだ。チャーチルは政治の要諦を「忍耐し、我慢しさえすれば、やがてよくなる」と形容した。ここ数年の政治に目を移せば、自民党政治の末期症状を嫌気して、「よかれ」と選んだ民主党政権がマニフェストの虚飾が露呈、有権者は政治への失望感に苛まれている状態だ。浮動票は響きのいい「新党」へと向かいかねないムードも生じている。しかし維新の会も「石原新党」も、独裁傾向で相通ずる「危うい」側面がある。繰り返すが、大正から昭和にかけての政党の体たらくが生んだ、ファシズムを繰り返してはならない。政権交代が期待外れであったからといって、決して国政には選んではならない政治家たちなのである。謀反の心を「異心」というが、朝日川柳で「野暮(やぼ)なことただの異心を維新とは」と看破されているとおりだ。朝から晩まで民放が政治批判を繰り返すから、政治システムまでも変えるのか。この国の政治を民放政治ショーの司会やコメンテーターレベルの政治にしてしまって良いのか。ここは有権者が自ら選んだ二大政党制を我慢の子で育成するべきだ。維新の会や石原新党などというムードに押されて、これに飛び付き、誤判断を繰り返すべきではない。新党にバラ色の未来など絶対にあり得ないのだ。
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