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2012-02-27 06:54
小沢の“保身”が招く国政の危機
杉浦 正章
政治評論家
裁判で秘書の証言が証拠採用されなければ、民主党代表・小沢一郎が「六方を踏んで躍り出る」と予測したとおりとなった。先週末以来、弁慶ばりのの大見得を切って、「政界再編だ」「倒閣だ」と、とどまるところを知らない。首相・野田佳彦は説得する意向を示しているが、消費増税で小沢と激突の流れは変わりそうもない。小沢がここに来て何故強硬姿勢に転じたかと言えば、本人がその根拠にするように、そこに国家観はない。ひとえに保身だけが際立つ。一人の政治家の独善性が国政の危機を招きかねない構図が浮かび上がっている。「小沢攻勢」のきっかけは、2月17日の証拠不採用だ。かつて同じく証拠不採用になった秘書は、3人すべて有罪となったから、小沢が無罪になるとは断定できない。そこに小沢には攻勢に出なければならない理由がある。「無罪の可能性」を背景に据えて、短期決戦に出なければならないのだ。なぜなら有罪となってしまえば、小沢は孤立化して、あらゆる戦略が成り立たなくなるからだ。無罪の「可能性」をエネルギーに変えるべく決戦に出るのだ。
そこで小沢の描く戦略はどこにあるのか。基本は数の論理を活用して、消費増税反対を軸に、政権揺さぶりを展開させる方向だ。まず3月下旬の増税閣議決定に向けて反対派を糾合して、野田に揺さぶりをかける。野田が無理矢理閣議決定すれば、提出した法案に反対で動く。政権の最重要法案に反対すれば離党を覚悟しなければならないが、小沢はこのところ勉強会に100人余りを集めており、法案否決の態勢は整いつつある。衆院の過半数は241人であり、民主党の勢力は291人だから、50人が反対に回れば可決を阻止できる。可決阻止の場合は当然離党・新党結成へとつながるということだろう。しかし、やみくもに新党といっても、国民的求心力が萎えきった小沢自身では、選挙に勝てない。そこで“活用”しようというのが、橋下徹・大阪市長が率いる大阪維新の会だ。小沢は最近親しい議員らに、大阪維新の会について「彼らは議席を持っていない。こっちがまとまっていれば(政界再編の)主導権はとれる」と漏らした。この発言は極めて重要だ。何を意味するかというと、新党への動きを維新の会の動きと連動させ、巻き込むという発想に他ならない。
なぜなら、維新の会は「新党」を結成できないからだ。新党結成には国会議員5人が必要となるが、今のところそれがない。小沢の新党と“連動”させれば、狙っているように比例区と選挙区で300人擁立も可能となるのだ。小沢は自らの悪印象を橋下でぬぐい去れると踏んでいるのだろう。小沢はこのままでは消滅するチルドレンを、橋下人気で救済するという虫のいい舞台回しを考えているわけだ。利口な橋下が、これに気づけば、警戒して小沢には接近しなくなる可能性があるから、実現はそう簡単ではない。一方で、野田がどう出るかだが、野田は自民党総裁・谷垣禎一が「小沢を切れ」とけしかけているように、いずれは「小沢切り」に直面する可能性がある。しかし、これも増税法案可決の前か後かで状況が全く変わる。可決前に「小沢切り」をする場合には、自民、公明両党と「話し合い解散」で法案成立を目指すという調整がついている必要がある。この調整がつけば、事態は成立後に解散・総選挙に突入して、決着は国民の判断に委ねられる。
一方で消費増税法案が、否決されてしまった場合の「小沢切り」は、あまり意味がなくなる。なぜなら同法案の不成立は、最重要法案であるから政治的には内閣不信任案の成立と同じことになる。野田は、自らが解散か総辞職を迫られることになる。総辞職の選択を野田がすることはまずあり得ないから、解散となるが、いかにも追い込まれての解散となり、「小沢切り」などどうでもよくなってしまう。おまけに念願の消費増税は実現のめどが立たないことになる。野田が「小沢の乱」に巻き返すには、話し合い解散しかなくなってきているのが実態である。これに不信任案上程が絡むから、事態の展開は一層複雑化する。それにつけても、小沢の逆襲の本質は、すべて“保身”にあることが明白となった。悪質なのはかって自らが唱えていたはずの消費増税という政権の存亡に関わる問題を盾にとって、「消費増税では筋道が通らない。国民は絶対に賛成しない」と言い切る姿勢にある。とりあえず小沢チルドレンの温存を図り、その数の力で袋小路に入った自らを救い出すことしか念頭にないのだ。そこには「壊し屋」で政界を渡ってきた、自己保身のみがあって、国家などは眼中にないのだ。
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