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2012-05-11 06:28
「野田・小沢会談」の危うい綱渡り
杉浦 正章
政治評論家
民主党元代表・小沢一郎の党員資格停止処分解除をサポートする首相・野田佳彦の国会発言が異常にオーバーだ。「無罪判決を受けて党の所要の手続きを踏んだ決定なので、党代表の私を含めてすべての議員が結果を尊重すべきであると考えている」と、臆面もなく小沢の資格回復支持を言い放っている。マスコミも野党も反発しているが、野田の眼中には世論も国会もない。狙いは、場合によっては来週後半にも実現するかも知れない小沢との会談だけだ。「会談で消費増税法案成立への流れが作れる」とする幹事長・輿石東の“調整”に乗っているのだ。野田は、小沢に“秋波”のサインを送っているのだ。野田と小沢の間に立って“暗躍”していた、輿石の動きが連休明けに一挙に表面化した。背景には、会期末まで1か月半を残すのみとなって、放置しておけば野田・小沢の激突で、野田が「話し合い解散」を選択する可能性が強まるという焦燥感がある。
輿石の描く構図は、野田と小沢を取り持って政権消滅につながる解散・総選挙と党分裂を回避し、延命を図るところにある。このまま放置すれば、両者は間違いなく激突の軌道に乗ってしまうのだ。輿石は連休中に相当の根回しをしたに違いない、その根回しを連休明けの5月7日の首相・野田佳彦との20分の会談で最終確認して、停止処分解除へと動いたといわれる。根回しの内容とは、(1)野田は小沢の党員資格停止処分の解除に応ずる、(2)その代わり輿石は小沢との会談を実現して、消費増税法案の取り扱いを話し合い、小沢を賛成に回らせる(3)野田は早期解散を回避する、というもののようだ。小沢は、筆者がかねてから指摘しているように、棒を飲んだような消費税反対一辺倒ではない。とりわけ1か月ほど前から、親しい議員には「野田君が会いに来ない」と漏らし、会談への意欲的な姿勢をほのめかしている。小沢にしてみれば、野田が解散に踏み切り、チルドレンの“総落選”で自らの力を削がれることが、一番恐ろしいのだ。
これらの動きは、10日の輿石の発言からもほの見える。輿石は「会談のために、処分を解除しておかなければならなかったという側面もある。処分を解除していなければ、小沢氏からすれば、どういう立場で臨むのか、発言権があるのか、ないのか、ということになる」と、停止処分解除の理由を説明している。小沢を野田との話し合いに動かすためにも、停止解除が不可欠であったというのだ。そして野田・小沢会談の方向は「野田総理大臣も、小沢元代表も、やがて国民に消費税増税をお願いしなければならないという考えは同じだと思う。野田総理大臣が、小沢氏ら増税に慎重な人たちと協議すれば、必ず合意形成できる。両者の会談は必要なことだと思っている」と言明した。輿石は、表向きは「消費税反対」は撤回せず、「会談もない」する小沢が、最終的には「消費増税法案で譲歩する」として、野田を会談に引き込もうとしているのだ。これを受けて、冒頭指摘したように、野田は過剰なまでの党員資格回復支持の発言を繰り返すに到ったのだ。
輿石は、野田に対して、今国会の消費増税法案成立をほのめかしているに違いあるまい。そこの歯止めがないまま、野田が会談に応ずるわけはないのだ。小沢にとってのメリットは、分裂を回避し、チルドレン消滅につながる解散・総選挙も先送りできることだ。ということは、民主党政権内で存在感を保てるというところに尽きる。もともと消費増税論者である小沢にとって、消費税などは政局のための道具にすぎないのだ。野田が輿石の路線に当面乗ってみようと思っているのは、2閣僚問責決議案可決など野党の強硬姿勢で袋小路に追い込まれる危機感が背景にあるからだろう。しかし、野田が輿石を全面的に信頼して、軸足の全てを乗せてしまうことの危うさは、並大抵ではあるまい。野田が、小沢と組んだ瞬間に、野党は敵に回る。例え衆院を民主党多数で通過させることができても、参院で可決成立させることは不可能に近くなる。小沢と輿石には参院段階での継続審議というオプションもある。そこを野田がどう解決するかの見通しが立たないままでは、会談のメリットは生じない。むしろ「話し合い解散」で野党との妥協を選択した方が、衆院も参院も通って成立への道が開けることは確かだ。したがって、野田は「話し合い解散」のオプションを握りつつ、小沢と会談して“瀬踏み”を図ることになる。輿石の打った“トップ会談”のビリヤードの球がどう転がるかは、まだまだ予測が付く段階ではない。
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