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2012-06-06 06:57
もう、野田・谷垣会談で打開する時だ
杉浦 正章
政治評論家
首相・野田佳彦が幹事長・輿石東に「赤恥」をかかされた。煮え湯を飲まされた、と言ってもよいだろう。おそらく野田は6月5日の民・自・公幹事長会談で消費増税法案の修正協議が合意に達すると確信していたに違いない。だから、同時刻に開かれた経団連での講演で、同幹事長会談の“実況中継”をしてしまったのだ。「会談がたぶん実ったと思う」「先ほど幹事長から電話(携帯の着信)があったので、たぶん報告があるのだろうと思う」と発言した。野田は明らかに、着信が修正協議に合意したという報告だと思い込んでいたのだろう。しかし、講演後、幹事長会談の物別れが分かった。野田は憮然とした表情で「ああそうですか。まだ協議には入れないのですか」とつぶやいた。野田の誤判断も、無理はない。自民党から要求のあった問責2閣僚の更迭は、5人も更迭して“おまけ付き”で処理した。衆院での採決の日程も「21日まで」と期限を区切った。中央公聴会の日程も12,13両日で決まった。国対委員長の経験もある野田にしてみれば、野党の要求はすべて聞き入れたから、「今頃は合意している」と経団連の“お歴々”に披露してしまったのである。しかし、野田は2つの点で甘かった。1つは、輿石が一筋縄ではいかないどころか、消費増税法案先送りの意図が変わっていないこと。もう1つは、自民党の輿石不信が予想以上に根深いことである。
輿石はまるで“変圧器”だ。野田が経団連で「協議をやりながら、何としてもこの国のためにやらなければならないことは、しっかりと結論を出す、という政治をつくりたい」と1000ボルトの発信をしても、輿石変圧器の二次コイルでは3ボルトに降圧してしまうのだ。この場面は、普通の幹事長なら、野田が「会期末21日までに消費増税法案を採決」を表明しているのだから、野党が採決時期を明示せよというなら、独自の判断で日程を提示して、とりあえず修正協議に入るようにするだろう。「修正協議がなければ、採決の日程は言えない」と開き直る場面ではない。ところが輿石は、どうも普通の幹事長ではないらしい。いみじくも参院自民党幹事長の溝手顕正が「八岐大蛇(やまたのおろち)かヌエみたいな、幹事長とも言えない怪しげな男がいて 日本の国を迷わせている。なぜヌエかと言うと、何も考えていないからだ」と述べている通りだ。ヌエとは、源頼政が紫宸殿上で射取ったという伝説上の怪獣。頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎に、声はトラツグミに似ていたという。要するに、得体の知れない怪獣なのだ。
だが得体が知れているのは、元代表・小沢一郎の路線を走っていることだけだ。あわよくば消費増税法案を21日の会期切れまでに採決せず、継続審議に持ち込んで、野田を窮地に陥らせ、民主党の実権を小沢に取り戻す。これがヌエの戦略なのだ。野田の経団連における“赤恥”は、輿石の姿勢をまだ甘く見ている証拠となった。恐らく野田は、その後輿石を詰問しているだろう。厳しく詰問して、やっと動くか動かないかの局面だからだ。野田は、6日の民・自・公幹事長会談で輿石が発言すべき一言一句を指示すべきであろう。それなくして、修正協議入りは難しいと見るべきだろう。輿石は、5日の常任幹事会で、筆者が6日に書いたとおりに、3日の野田・小沢会談の実態が「話し合い解散なし」であったことを明らかにした。「元代表と首相との会談で確認したことは、2つある。1つは党内一致結束していこうということ。1つは今すぐ選挙ができる状況でもないし、やる状況でもないということだ」と述べたのだ。これは小沢に向けての懐柔であると同時に、自民党へのけん制である。野田は、解散という最後の切り札を輿石にいいように使われている。衆参同日選挙論者の輿石は、「解散なし」という一点で党内をまとめようとしているが、消費増税法案成立にとっては、愚策中の愚策だ。だから信用されずに物別れに終わったのだ。
自民党も、谷垣の「話し合い解散」路線と森喜朗ら長老の妥協路線との間で揺れている。自民党の場合は、民主党が下手をすれば分裂含みなのに対して、分裂まで行くほど深刻ではない。しかし、谷垣がいかに党内をまとめるかの手腕が問われている。このまま放置すれば民主、自民両党とも、党内論議に足を取られて、消費増税法案の成立という千載一遇のチャンスを失う。両トップの地位も危うくなる。この膠着(こうちゃく)状態を打破する最良の方策は簡単だ。「野田・谷垣会談」で大局から判断すればよいのだ。お互いが抱える不満分子をトップ会談によるリーダーシップ発揮で、有無を言わさぬ状況に追い込む。トップ会談の重要な意義がそこにある。指導者としての責任をここで発揮しなければ発揮するチャンスはない。ようやくここまできた一体改革、消費増税を元のもくあみにに戻してはならない。ここは日本という国家が衰退に向かうか、再生するかの急所なのだ。
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