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2012-06-11 10:26
新国際秩序をめぐる主導権争い
鍋嶋 敬三
評論家
27カ国の国防相らが参加した第11回アジア安全保障会議(「シャングリラ対話」6月1-3日、シンガポール)の前後10日間は、米国のアジア太平洋回帰の新戦略を軸に中国、ロシアを含むアジア全域を巻き込むめまぐるしい外交戦が展開された。21世紀前半の新たな国際秩序の形成をめぐる米、中、露の主導権争いが激しさを増してきた。パネッタ米国防長官は「対話」で新戦略の具体像を示した。(1)中国を念頭に置いた国際ルールと秩序の順守、(2)日米韓豪など同盟強化、(3)東南アジア、インド洋への米軍の存在の増強、(4)中国との戦略的信頼性の改善、などである。沖縄海兵隊の一部グアム移駐について長官はグアムを「西太平洋における軍事戦略のハブ(中心)」として発展させ「アジア太平洋地域における広範な不測の事態に対応する能力を高めるもの」と位置付けた。米高官がグアム移転の意味をこれだけ明確にしたのは初めてである。
「対話」の焦点は中国とフィリピン、ベトナムなど6カ国・地域が領有権を争う南シナ海である。米国は東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国との間で法的拘束力のある行動規範を作るよう求めている。中国はこれに反対の立場だ。中国とフィリピンがにらみ合いを続けてきたスカボロー礁に関連してパネッタ長官が「航行の自由は米国の国益」と断言、中国に警告を発した。昨年は出席した中国の梁光烈国防相が欠席したのは南シナ海問題が取り上げられるのは必至と読んだためだ。米中関係が「対話」に大きな影を落とした。シンガポールのウン国防相は「ASEAN諸国は米中どちらを選ぶのかと選択を迫られる立場になりたくない」と述べ、米中間に挟まれた複雑な心境を吐露した。
米国はアジアとの協力強化に精力的に動いた。パネッタ長官がフィリピン、シンガポールの各国防相と会談。最新鋭の沿岸戦闘艦(LCS)4隻を2013年前半以降にローテーション・ベースで前進配備することでシンガポールと合意した。ベトナム戦争終結(1975年)後、初の国防長官としてカムラン湾を訪れたパネッタ氏は同国を「パートナー」と呼び、米艦の寄港を「特別に重要なことだ」と防衛協力の拡大を強調した。デンプシー統合参謀本部議長もフィリピン、タイを訪問、軍事協力の強化の姿勢を示した。米国が特に力を入れたのがインドである。同国を訪問したパネッタ長官は米国の戦略転換について「西太平洋からインド洋に伸びる弧(arc)における軍事的パートナーシップと米軍の存在を拡大するもの」であり「インドとの防衛協力はこの戦略のリンチピン(くさび)である」と言い切った。この発言は中国の増大する影響力への対応を示すものだ。一方で長官は中国を刺激しないよう「米印も中国との関係強化を求めている」と付け加えることも忘れなかった。
中国の動きも目立つ。インド洋に面するスリランカに中国が建設した大型港が開業した。中国の梁国防相は5月末にカンボジアで開かれたASEAN国防相会議に出席、同国への軍事的関与を強化した。中国がロシアと組み始めたことも注目すべきである。中国は6月6、7日北京で上海協力機構(SCO)の首脳会議を主催、故錦涛国家主席はカザフスタンなど中央アジア4カ国に100億ドルのローンを2009年に続いて供与すると発表、同地域への影響力拡大に歩を進めた。サミットに先立ち国賓として訪中したロシアのプーチン大統領は故主席との会談で「露中の協力は公正な新世界秩序の形成に寄与する」と述べたと伝えられる。中露両国はシリアに対する国連の制裁強化に強く反対し、米国への対抗姿勢を強めている。このような米―中露の対立軸は北朝鮮やイランの核開発を含め国際的な安全保障問題の解決をさらに難しくする可能性を否定できない。
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