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2012-06-15 21:54
眼前に迫る欧州版リーマンショック
藤井 厳喜
ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ・オブ・ジャパン代表取締役
6月9日、スペインがEUに経済支援を要請した。EUは直ちに、最大限1000億ユーロの融資をスペインの民間銀行に行なう事を決定した。一時的に市場は沈静化し、ユーロは相場を戻しているが、この安定はあくまで一時的なものである。スペイン・ギリシャ・イタリアなどの重債務国に対する抜本的な解決策は全くとられていない。財政規律を主張するドイツとその他の国が対立し、政治的な合意形成が出来ていない為である。
重債務国の根本的解決には、3つの方法がある。第1は、既に2回実施したLTRO(長期資産買い取りオペレーション)により、通貨ユーロを域内の民間銀行に大量供給する事である。第2は、ヨーロッパ中央銀行(ECB)が、重債務国の国債を必要なだけ、直接買い付ける事である。第3は、兼ねてから議論されてきたユーロ共同債の発行である。これは信用のある国が金を借りて、これを重債務国へ貸し付けるという事になる。いずれの策に対しても、現在、ドイツのメルケル首相は反対している。第1のLTROに関しては、昨年の12月と今年の2月に2回実施し、1兆ユーロ以上を市場に供給したわけだが、ドイツを中心とする反対派は第3回目の実施は避けたいと考えている。結論として言えば、ユーロを守る為には、いずれこれらの手段を動員せざるを得なくなるであろう。
6月17日には、ギリシャで再び総選挙が行われる。ここで、財政規律に反対し、EUとの契約を再交渉すべし、と主張している急進左派連合(SYRIZA)が第1党となれば、ユーロは更なる危機に見舞われる。危機を放置すれば、確実にユーロ安は進む。抜本的対策をとれば、3つの手段のいずれも、ユーロの大幅な量的緩和を行なうという事であり、ユーロ安が進む。問題が解決してもしなくても、ユーロ安が進むという結果に変わりはない。ヨーロッパ経済危機の深化を見て、アメリカのFRBは大きくQE3(量的緩和政策第3弾)実施の方向に傾いている。5月31日、世界銀行のロバート・ゼーリック総裁は、欧州版リーマンショックが眼前に迫っている。つまり、欧州発の金融危機が世界を襲おうとしている、と警告を発した。そして、ヨーロッパのリーダー達自身が、ことの重要性に気づいていないのではないか、と指摘している。
ゼーリック氏は、米共和党系の実務家であり、筆者も個人的にも存じ上げている方である。アメリカ人だから、ヨーロッパ危機に対しては厳しい見方をしている、というところもあるが、極めて地に足の着いた実務家であり、派手な言論を振り回す人物ではない。2008年、リーマンショックの欧州版が近づいている、という警告は、真摯に受け取るべきであろう。アメリカは、QE3でドルの大量供給に向かい、ヨーロッパは時間はかかるが、いずれにせよ、ヨーロッパ版QEをやらざるを得ない。1ドル=60円台、1ユーロ=80円台、日経平均7500円台の世界が、眼前に迫っている。
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