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2012-08-06 06:42
政局緊迫、消費税3党合意が風前の灯
杉浦 正章
政治評論家
政界名物のチキンゲームの様相だ。首相・野田佳彦と自民党総裁・谷垣禎一が互いの車に向かって一直線に走行している。激突を回避する道はただ一つ。野田が解散の確約をするかどうかだ。しかし、永田町に流れる選挙情勢調査は、解散イコール民主党の“集団自殺”だ。それでも野田が消費増税法案成立に本当に政治生命をかけ、解散を確約するのか。また、内閣不信任案が成立し得るのか。その場合、解散か、それとも内閣総辞職のウルトラCか。事態は緊迫だ。ここは両者が得意の極秘会談か、電話による極秘会談での打開が不可欠だ。おそらく何らかの接触を試みているに違いない。「なめたらいかん」と自民党の幹事長代行・田野瀬良太郎が激怒して開き直るのももっともだ。8月5日のNHK討論では、民主党幹事長代行・樽床伸二が、事態の深刻さを理解しているのかいないのか、終始ニヤニヤ笑いながら、消費増税法案の早期採決を全否定。首相・野田佳彦が10日の採決を指示したことも、「マスコミが言っているだけで、指示は受けていない」とこれまた否定。あくまで消費増税法案を赤字国債、定数是正の2法案と絡める方針を明らかにしたのだ。明らかに民主党執行部は、幹事長・輿石東以下、解散回避で凝り固まったように見える。
これでは首相・野田佳彦が5日「輿石幹事長と、柔軟性を持って対応しようということで認識が一致した」と述べても、自民党が信用するはずはない。輿石は消費税より解散回避を選択しているように見えるのだ。野田が執行部を押さえられないという事態がまた発生しているのだ。輿石は、ロシア帝国崩壊の一因をつくった怪僧ラスプーチンのように、陰謀をめぐらせている。何が何でも野田が解散できないような環境を作ろうとしているのだ。ここまで政局が緊迫した以上、小細工は利かないのだが、それを理解しようとしないのだ。したがって、自民党サイドの不信感は頂点に達しつつある。輿石を野田が6日中にも完全に押さえ込まない限り、消費増税法案は廃案の瀬戸際にあるように見える。なぜ執拗なまでに輿石が解散回避にこだわるのかだが、それには最近行われた選挙情勢調査の結果がある。新聞の調査も、自民党の調査も、民主党大敗と出ているのだ。永田町に流れる新聞の選挙予想調査では、民主党は現在の250議席から103議席か75議席にまで転落しかねない。一方、自民党は200議席を上回り、別の調査では単独過半数もあり得るという。先に山口知事選の際に筆者が分析したとおりに、3年前に民主党に流れた浮動票は、すべてが維新の会など第3極に流れそうな気配なのだ。野田は、ちょうど解散を前にした当時の首相・麻生太郎のような状況に置かれたのだ。解散すれば政権を失うことが分かっているのだ。輿石は解散による民主党政権瓦解と消費増税法案をてんびんにかけているのだ。
こうして激突のコースに向かっているのだが、今後は、自民党が不信任案を提出すれば、これを軸に展開する。先例により不信任案は人数の多い政党が提出したものを先に採決して、その後は一事不再議で採決されない。自民党が提出した場合には、野党7党の不信任案は採決に到らない。したがって、自民党案に7党もなだれ込まざるを得まい。生活代表の小沢一郎も、なりふり構っていられないところだろう。問題は可決されるかどうかだが、民主党から15人以上が賛成しない限り、すべての野党が賛成しても可決されない。したがって、例によって離党予備軍の鳩山由紀夫一派が賛成するかどうかにかかっている。また棄権が多く出ても可決される。衆院における消費増税法案採決で反対または欠席しながら党にとどまった民主党衆院議員は32人おり、この動向が鍵となる。今のところ不信任案否決説が有力だが、民主党内増税反対勢力は、結果的に自民党案でも消費増税法案阻止が可能となれば、なだれ込む可能性が否定出来ない。否決の場合、自民党は法的拘束力がないが問責決議案で勝負することになる。また、ぎりぎりの奇策がないわけではない。消費増税法案は衆院から参院に送付後60日が過ぎた場合、つまり今月25日以降は参院の採決がなくとも、衆院の3分の2以上の賛成で再可決が可能となる。自公が賛成に回れば成立可能だが、まだ五里霧中だ。
こうした中で、焦点は野田と自民党総裁・谷垣禎一とのパイプが生きているかどうかだ。いまのところ自民党は今国会9月8日までの解散確約を要求している。今後の展開予想は、自民党の言うとおりに解散すれば、野田は確定的となった再選の可能性を打ち消すことになる。半減以下に議席数を激減させた党首を再選させることはまず困難だからだ。不信任案が可決された場合には、解散か総辞職を迫られることになる。野田はまず解散を選ぶとみられるが、ここで永田町でささやかれ始めたのが、野田は解散を選ばず内閣総辞職を選ぶのではないかという説である。内閣総辞職をして、副総理・岡田克也か前原誠司を首班に選出、イメージを刷新した上で、通常国会冒頭あたりに解散・総選挙を打つというのだ。身を挺して党を救うという最後の手段である。しかし、その場合、野田が「政治生命をかける」と言った消費増税法案は宙に浮きかねない。何でもあり政局だから可能性は全否定できない。このように野田の選択肢は極めて狭められてきている。ここで重要なのは、消費増税法案を成立させること自体は歴史に残る快挙であり、野田は現段階でそれ以上を望むべきではあるまい。野田は早急に谷垣と党首会談を公式または非公式に開いて、今国会か秋の臨時国会冒頭かのいずれかの時点での解散を確約するしか、事態打開の道は開けまい。谷垣も消費増税法案を潰せば“希代の悪役”として歴史に名をとどめることになることを知り、妥協に動くべきだ。
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