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2012-08-18 17:43
吉田重信氏の提言する「尖閣上陸行為への対処策」には重大な疑問あり
角田 勝彦
団体役員
8月17日付けの吉田重信氏の本欄への寄稿「香港住民による尖閣上陸行為への対処策」を関心を持って拝読した。筆者も、本件に関連し「世界で目立つ『日本軽視』の言動」を本欄に寄稿したばかりである。拝読したところ、「中国側の主張を認めて、話し合いでの解決に応じるほかない」等の吉田氏のご主張の前提には、次の3点の基本的な事実誤認があると思われる。したがって、筆者としては、ご提案の「対処策」なるものには重大な疑問を抱かざるを得ないので、ここに指摘しておきたい。
吉田氏が「注目すべきは、米政府当局が日米安保条約5条の共同防衛条項の適用はせず、中立的立場を明らかにしたうえで、問題を日中間で平和的に解決することを求めたことである。換言すれば、たとえ尖閣問題をめぐって日中間に軍事衝突が起こっても、米国は日本を支援しないということだ」と書かれるのは、たとえば(1)2010年9月に沖縄県尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件の際、クリントン国務、ゲーツ国防両長官が日本への防衛義務を定めた日米安保条約5条が尖閣諸島に適用されるとの考えを示したこと、(2)2011年1月6日にクリントン長官が前原誠司外相との会談で、尖閣諸島が同条約の適用対象だと再確認したこと、さらには(3)2011年6月の日米「2プラス2」(日米安全保障協議委員会)でクリントン長官が「5条が適用されるとの米国の立場を改めて確認する」と述べたことなど、を無視されている。拙稿で指摘したとおり、中国はこれを十分認識しており、本年8月11日の『環球時報』紙は尖閣問題で「ロシアと韓国の支持を得るだけでなく、米国の中立(的立場)を勝ち取るべきだ」、「(米国が中立となれば)日本が釣魚島問題で騒げる空間は小さくなる」と指摘した。
「日中間の軍事衝突」などはあってはならない。このためにはいっさいの武力衝突を避ける努力が必要である。領土問題では、偶発的衝突が双方の国民をあおりたて、戦争の火花となることが稀ではない。米国が「この問題は日本と中国の間で話し合ってくれ」と言っても、それは当然である。米日対中国の戦争など全人類の悪夢である。そして国際紛争の平和的解決は国際法上の義務である。国連憲章第2条第4項は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と定めている。理屈があっても、国際司法裁判所への提訴くらいで我慢し、相手国の実効支配を武力で排除してはならないのである。それをすれば、相手国は「自衛」の名で反抗するであろうが、それは「合法」とされる。問題は、2011年6月の日米「2プラス2」でクリントン長官が名指しで指摘したように、中国が「地域に緊張をもたらしている」ことで、同長官は中国に「国際的な行動規範の順守を促し」ている。また南シナ海の領有権を中国と争う東南アジア諸国にとり、尖閣は「対岸の火事」ではなく、関心を持って見守っている。「東・南シナ海を問わず、中国と領有権を争う関係当事国が、結束し対処することが必要」との指摘もある。
尖閣諸島をめぐっては、中国共産党機関紙の『人民日報』が、2012年1月17日に初めて「核心的利益」と表現したり、「武力衝突の可能性」を示唆したりするなど、中国側の日本への挑発はエスカレートしている。吉田氏は、いかなる形での「話し合いでの解決」を考えておられるのだろうか。なお、中国が国際司法裁判所に提訴するのなら、日本政府は応じることになろうが、中国は法的に勝ち目なく、提訴は行われないだろう。
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