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2012-08-29 06:55
野田は再選、自民は谷垣が有力:党首選の動向
杉浦 正章
政治評論家
国会がにっちもさっちもいかなくなって終盤を迎え、当面の永田町の関心事は、民主、自民両党の党首選の行くえに移行しつつある。臨時国会に予想される解散で陣頭指揮をふるうのは誰かということだから、両党とも真剣勝負の党首選だ。しかし民主党は、首相・野田佳彦が独走態勢にあり、他の候補は立候補しても泡沫だ。問題は自民党だが、結局回り回って総裁・谷垣禎一の再選に落ち着くのだろうと思う。消去法でいくと、いずれも一長一短で、他に勝負が出来る候補がいないのだ。国会が8月29日から動かなくなり、与野党とも街頭に出て有権者に直接相手の非を訴える状況となった。事実上の選挙戦の火ぶたが切られようとしている。当然野田も、谷垣も、党首選を意識した地方党員向けの多数派工作をかねた動きとなろう。とりわけ谷垣は、先の総選挙での所属国会議員激減を背景に、総裁選の投票者が、議員200票に対して党員票が300票もあり、天王山は党員票とばかりに、活動を活発化させることになろう。既に野田は27日のNHKで立候補については「想像がつくでしょう」と述べ、事実上の立候補宣言をしている。党内は小沢一派が去って、鳩山由紀夫ら反主流にめぼしい候補が存在せず、野田再選は確定的だ。一部に田中真紀子を担ぐ動きがあるが、いくら窮余の策とは言え、これはひどい。外相時代の国政大混乱を忘れたのか。とてもその器ではない。
一方で自民党は、大きな流れは谷垣再選が有力となっているものの、党内基盤が弱くまだ確定的とは言えない。しかしここに来て、不人気な谷垣を見直す声も出始めている。「人気はないが実績はある」(党幹部)というのだ。確かに下野して3年間苦闘の中で、首相・鳩山由紀夫、菅直人を退陣させ、民主党をようやく断末魔まで追い込んだのは谷垣だ。知事選など地方の首長選挙では連戦連勝の形となっている。最近の有力紙の衆院選挙情勢調査では、民主党が80議席なのに対して自民党は200議席という数字も出ている。自民党の長年の懸案であった消費増税も、自公民路線で成立させた。リーダーシップがないといわれながら、「結構やっている」(党幹部)のだ。しかしここに来て、一時は「今のところ、どう見ても谷垣さんしかいない。総裁就任から3年我慢してやってきたし、 瑕疵 ( かし ) はない」とベタ褒めだった元首相・森喜朗が、谷垣批判に転じた。「この大事なときに野田首相の問責決議案を出すというのは一体何を考えているのか。国会が止まったら特例公債法案などはどうするのか」と駄々をこね始めたのだ。「谷垣君は3党合意をやりながら問責とはぶれている」と言うのだが、自分の大ぶれは棚に上げている。どうも引退宣言してからの森の発言は軽くなった。ただ有力候補と目される幹事長・石原伸晃はまだ立候補せずに、谷垣支持に回る可能性が高い。
既に手を挙げているのは、林芳正と、安倍晋三だが、いずれもまず本命とはなり得ないだろう。林は参院議員だ。衆院に鞍替えを試みたが、党執行部は応じず、断念に追い込まれている。林自身は「憲法上も、自民党の規則上も、総裁候補になることは可能だ。推薦人が20人を超えれば今回は逃げない」とやる気満々だ。しかし、政治的には参院は衆院から“人種差別”されているのが実態だ。「首相になるために、苦労して衆院議員になったのに、なんで参院議員ごときが総裁なんだ」(自民党幹部)と反発も強い。過去に面白い逸話がある。大蔵省の後輩宮沢喜一を参院に立候補させて育てたのは池田勇人だ。その池田が咽喉癌の病床で「君はもったいない。鞍替えせよ」と衆院からの出馬を勧め、宮沢は67年の選挙で鞍替えを達成したのだ。これが後の宮沢首相の原点となった。林も、首相になる第一歩でつまずいては、能力があるのに惜しい。
安倍の方も根本的な問題を抱えている。それは2007年にノイローゼ状態となって首相の座を投げ出したことだ。政界にとっては、既に“賞味”済みなのである。本人も「いったん総理を勤めて、挫折をして国民に迷惑をかけた」と反省しているが「その上に立って何をすべきかを考えたい」と意欲的なのだ。しかし、政治姿勢が問題だ。まず政策的には消費税反対だ。再来年の4月に消費税率が8%に引き上げられることについて、「今の経済状況で本当にできるのかという不安が国民に広がっている。勉強会を開いて、日本を再び豊かにするためのメッセージを発信していく」と述べている。首相に返り咲けば、消費増税実施を潰しかねないのだ。政治路線も、大阪の軽佻(けいちょう)浮薄・橋下徹への大接近だ。重厚な保守派と思いきや浮動票目当てなのだ。「発進力があり、彼らの力は必要だ」と述べるが、矜持もなく、なりふり構わぬ接近ぶりは、いかんともしがたい。接近など選挙後の数合わせの時で十分だ。自民党内の流れとは相容れない側面があり、返り咲きは難しいだろう。さらなる対立候補としては、石破茂、町村信孝がいる。いずれも能力はあるが、党内基板が弱い。しかし石破は地方党員の支持が高く、立候補すれば有力候補になり得るが、谷垣を凌駕できるかは、疑問だ。こう見てくると、消去法ではまず林、安倍が消えそうである。いずれにしても谷垣の“実績”が重視される流れとなりそうだが、流動性はなお残る。
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