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2012-11-11 01:03
「モダン段階」の中国に対抗するには
津守 滋
立命館アジア太平洋大学客員教授
中国の公船(海洋監視船など)による尖閣諸島の周辺の領海侵犯の頻度が著しく増えている中で、中国の今後の出方について、様々な憶測が乱れ飛んでいる。中には、中国共産党指導部が北戴河会議を境に「武力による日本簒奪」に踏み切った、などとの元政府高官の見方も最近目にした。このような危機感を煽る観測が、現在一市民とはいえ、かつて日本政府の中枢部にあったものの口から出てくるほど、現在の日中関係が危険な水準に達しているのかも知れない。このところ中国政府は、尖閣と引っ掛けて、日本はあたかもファシスト国家から清算していないかのような非難を繰り返しているが(たとえば11月6日のラオスでの楊外相の発言)、およそ正気の沙汰とは言いがたい。今回の尖閣をめぐる中国の対応振りから、中国という国がいかなる国か、日本のみならず、世界が考え始めている。その図体がでかくなり、力が強くなっているだけに、どこの国にとっても他人事ではなくなっている。
今年1月に公益財団法人日本国際フォーラム(伊藤憲一理事長)は、「膨張する中国と日本の対応」と題して政策提言を作成し、四大全国紙に意見広告を出した。私を含め68名が署名している。そこでは「日本の領土を守るための体制に万全を期すべき」ことのほか、「中国との関与関係の強化」、「多国間による不戦共同体の形成と同共同体への中国の参加の勧誘」、「中国経済の活力の導入と同時に、中国経済への過度の依存の回避」など、9項目の提言を行った。
これらの提言は、今回の尖閣問題発生後も、基本的には妥当性を失っていない。問題は、このような提言を行った前提としての中国に対する認識である。この提言は、その前言で次のように書いている。「中国は『モダン』段階の国家の常として、国家主権の確立に固執し、しばしば『自国さえよければ』という狭義の国益追及に走る傾向があるのに対し、日本は『ポストモダン』段階の国家として、国益をより広義に捉え、国際的公益に配慮する必要をより強く自覚しています。日中関係を規定する要因の中には、隣接する大国同士にとって避けられない歴史的対立や領土的紛争だけでなく、このような国家としての発展段階の相違、さらには世界政治に占める位置づけの相違もまた内包されていることに留意する必要があります」。
最近の中国の言動から、この国は十九世紀的国家であるとの評価が国際的に定着しつつある。この国に対し「ポストモダン国家」である日本も、自ら格下げして十九世紀的に対応しなければならないのだろうか。もし、「目には目を、歯には歯を」で臨む道を選ぶことになれば、極めて危険な方向に進むことになる。為政者と国民の賢慮(prudence)が望まれる。
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