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2012-12-20 06:59
自転車操業の経済と安全運転の外交・安保
杉浦 正章
政治評論家
内閣発足前から政権の実権は自民党に移行した。矢継ぎ早に打ち出す総裁・安倍晋三ら執行部の方針は、明らかに景気回復最重視に貫かれており、「アベノミクス」として市場に好感されている。株価は1万円を突破、為替相場もNY市場で84円台半ばと、一時1年8カ月ぶりの安値をつけた。10兆円の大型補正、2%の物価上昇目標、10年間200兆円の公共事業投資とくれば、市場は反応せざるを得ないが、問題は長続きするかだ。安倍は金利急騰などの危険を避けるためには、次々と対策を打ち出さざるを得ず、“自転車操業”的なリスクを伴う。副総理での入閣が取りざたされている元首相・麻生太郎は、最近安倍に「参院選が終わるまでは景気・経済一本でいくべきだ。外交・安保・防衛には一切触れるな」と忠告した。安倍は、この麻生提言を忠実に守りそうな構えだ。選挙圧勝後の安倍は、一気に景気対策に向けての動きを加速し始めた。まず日銀総裁・白川方明と会談。一方で、幹事長・石破茂が官房長官・藤村修に話しを通した後、12月19日には財務省、内閣府、国土庁の次官と会談。指示を連発するなどめまぐるしい動きを見せている。公明党とも連立の政策協定を結び、10兆円の補正予算が固まった。
正式な政権移行後は、小泉政権で重視された経済諮問会議を復活させ、マクロの経済対策を進める。自民党の公約である「日本経済再生本部」が中小企業支援策や雇用対策などに取り組むのと合わせて、車の両輪体制の「合同会議」で景気対策を推進する。担当相には政調会長・甘利明を起用する方向だ。総じて安倍執行部の取り組みは、常に危なっかしさが伴った民主党政権に比べて、“手練れの安定感”があることは確かだ。白川との会談の中身は出ていないが、明らかに安倍がさらなる金融緩和で押さえ込んだ形となった。白川はかねてから安倍の路線のリスクを指摘しており、抵抗するかに見えたが、選挙圧勝を背景にした安倍の金融緩和路線を認めざるを得ない方向となった。野田内閣とのデフレ脱却への「共同声明」で、当面「1%」の物価上昇を目指すとした方針は撤回され、安倍の「物価目標2%を」を受け入れる方向となった。新政権や国会を無視できないという政治的妥協に動いたのだ。これまで日銀はデフレ脱却の実績を全く上げていないだけに、押さえ込まれても無理はないところだろう。既に政界の関心は、4月で任期が切れる白川の後任人事に移っており、元財務次官・武藤敏郎、前財務次官・勝栄二郎、元日銀副総裁・岩田一政、元経済財政相・竹中平蔵らの名前が取りざたされている。
こうしたアベノミクスを市場ははやしにはやし、筆者が先に予言したように株価は「安倍相場」で1万円台に届き、円安にも誘導されている。しかし、この1万円台乗せは“危うさ”を土台としている。買いの中心は外国人投資家であり、アベノミクスが本当に機能してゆくのかという懐疑論が常につきまとうからだ。結果を出さない限り、外国人の投資はすぐに離れてしまうだろう。問題は、日銀の金融緩和をメインに据えても、限界があることだ。賃金の上昇が伴わない物価の上昇となれば、消費はさらに冷え込む。設備投資が連動しなければ、大量にカネを放出しても効果は出ない。石破が19日今年度の新規国債発行額について、民主党政権が上限に定めてきた「44兆円」を「超えないと断言できない」と述べたように、財政危機が拡大する副作用が常に伴う。しかし、それだからと言って、手をこまねいていられないのが実情なのだ。来年夏の参院選までに結果を求められているのだ。ここはリスクがあっても“賭け”に出ざるを得ないのだ。
外交・安保でも安倍は圧勝後自らの主張を封じている。確かに尖閣諸島に船だまりを造り、公務員を常駐させるなどの方針をいま実行に移せば、日中軍事衝突もあり得る。石原慎太郎と歩調を合わせることなど、百害あって一利なしだ。参院選にもマイナスに作用するし、米国は日中衝突を望んでいない。1月下旬にも予定される、大統領・オバマとの会談では、同盟関係の強化をうたうことになろうが、日中間をきわどい方向に持って行く流れにはならないだろう。インド、東南アジア、オーストラリアを含めたゆるやかな対中封じ込めを進めることが大切である。オバマとはこの方向での合意を目指すべきだ。集団的自衛権の確立は、基本的に内政問題であり、実行して当然だ。そこで焦点となるのが環太平洋経済連携協定(TPP)だ。これは一種の対中包囲網の側面があり、安保関係にも強い影響をもたらす。安倍は「聖域なき関税撤廃に反対」と述べてきたが、問題はその「聖域」をどうするかに絞られてくるだろう。地域の経済大国の日本が交渉に参加しなければ、TPPは事実上成り立たず、オバマは強く交渉参加を求めるに違いない。交渉に参加して「聖域」を作る方向が流れだが、参院選前の方針明示が可能かどうかは、微妙であろう。こうして外交・安保では安全運転を余儀なくされるのが流れだ。
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