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2012-12-22 05:12
中国機による領空侵犯の背景を慎重に分析せよ
杉山 敏夫
団体職員
今月13日に起こった中国機によるわが国領空への侵犯が、様々な議論を呼んでいる。中でも現在、世間一般でもっとも支配的でかつ強力な議論は、今次における「領空侵犯」を、本年9月以降の中国公船による度重なる「領海侵犯」に続く、その「エスカレーション」(の一形態)とする見立てである。実際、この数日間の世論や各種報道等によれば、「中国(習近平新体制)は、わが国領海だけでなく、ついに領空への侵犯に踏み切った」との見方がその大半を占め、なかには事件翌日の中国外相による発言を引用しながら、「日中開戦」を示唆するかのような報道もなされている。
しかし、このような見方は、領空侵犯が事実だとしても、短絡的であり、一方的ではなかろうか。先日の選挙で大勝した自民党は、その期待に応えるべく、「中国に対する断固とした対応」を検討していると言われるが、目先の世論や各種報道等に流されず、中国機による領空侵犯の背景を冷静かつ沈着に分析した上で、わが国の対応を定めてほしい。とりわけ、今回の領空侵犯は、表面的にはこれまでの領海侵犯に続く、中国による一連の拡張主義的外交政策の表れとして理解できるが、その背後にある中国側の内部事情はまだ十分には分かっていない。
例えば、今回の領空侵犯は、新しく誕生したばかりの習体制を支える側近らあるいは習本人によるトップダウンでの指示だったのだろうか。仮にそうだとすれば、これは習体制下の中国自身にとって賢明な選択でないばかりか、中・長期的戦略に基づいたものとも言えない。これからの新しい10年間を指導していく上で、習らが中国の更なる経済成長等を望むのであれば、わが国との関係修復と協力関係の維持・強化は不可欠である。にもかかわらず、日本の総選挙を数日後に控えたタイミングで、日本の領空を侵犯したことは、民主党や他党に比べてより強硬な対中政策を掲げる自民党への追い風となった。圧倒的多数の議席を確保した自民党政権と今後対峙することとなる中国共産党は、今やその関係修復に向けた「機会の窓」を自ら狭めてしまったことになる。
他方、今回の領空侵犯がトップダウンの指示に拠らないとすれば、ほかにどのような推測が可能だろうか。以下は、検討すべき事柄を指摘するに留める。まず、一部のメディアではすでに示唆されているが、プロペラ機を出動させた部局やその周辺局において、習新体制に対する政治的アピールの動きと最新機・機材等の予算取りに向けた競争的動きがあることを注視したい。また、日本国内の各種報道では、この数日来、中国外相らによる発言内容等が大きな注目を集めているが、我々はより一層、誰が何を話しているのかに敏感であってよい。中国の外交・安全保障政策を分析する上で、ある言動が中国外交部の高官によってなされたものか、最高意思決定機関である中国共産党中央政治局や中央軍事委員会の高官によってなされたものかの違いは、非常に大きい。
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