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2012-12-24 10:51
北朝鮮についてわれわれの再度確認すべきこと
松井 啓
日本大学講師・元大使
本年4月13日の外国人を招いての北朝鮮のミサイル発射ショーの失敗は、金正恩新体制にとっては大きな躓きであった。その後、金正恩総書記は着々と次の発射をにらんで準備を進めた。金正日独裁体制を若くして引き継いだ息子正恩は、父親の命日である12月16日までに「強盛大国」の遺訓を着実に実行している証を示す必要があった。「ミサイル」の発射日時は、4月の失敗直後から12月12日にセットしていたものと思われる。これは大きな賭けであり、今度は失敗するわけにはいかなかった。今回は外国人を招かず、仮に1つ目が失敗しても、次に打つ手は備えていたであろう。発射予定最終日を1週間延長したり、ミサイルをシートで覆ったりした陽動作戦は、それを示唆している。
「北」の行動パターンを復習すれば、1993年核拡散防止条約から脱退、1998年長距離弾道ミサイル試射、2005年核保有宣言、2006年7月弾道ミサイル連続発射、2006年10月第1回核実験、2009年4月長距離弾道ミサイル発射、2009年5月第2回核実験、2012年4月長距離弾道ミサイル発射という具合であり、その過程で何度か交渉に応じ、時間稼ぎをするとともに、食糧援助等を掠め取っている。完全ではなかったとはいえ、今回の発射により自信を付けた独裁政権は、更に米国本土にも届くミサイルの長距離化と核弾頭の軽小化に邁進するであろう。
我々が再度確認すべきなのは、つぎのような諸点ではないか。第一は、北朝鮮の究極的目標は北による南北統一であるということ。その実現はアメリカの介入により頓挫しているが、「強盛大国」は建国者金日成の遺訓である。第二は、「北」はいまだに朝鮮戦争のトラウマから脱することができず(マッカーサーの核使用の進言もあり)、小国「北」が超大国米に対抗できる唯一の手段は核兵器による抑止力であると信じているということ。そのためには長距離ミサイルと核弾頭の開発を最優先で推進するしかなく、国民の生活レベルの低迷は意に介さない。明治以来先の敗戦まで日本国民は富国強兵、臥薪嘗胆、「欲しがりません勝つまでは」のスローガンの下で窮乏生活に耐えたこと、アメリカの眼と鼻の先にあるキューバ国民がカストロ独裁体制に長期間耐えてきたこと、が想起される。
しかしながら、冷戦体制下のハンガリー動乱(1956年)、チェコ事件(1968年)、更に天安門事件(1989年)等の時代に比べて、現在はインターネットによる情報の伝達がグローバル化しており、統制が強いとはいえ「恐怖の壁」が一旦崩れれば「アラブの春」のような民主化運動の津波が起こる可能性はあろう。今まで裏をかかされ続けてきた長い道のりに比べれば、外圧よりも内から砂上の楼閣の崩壊を助長することが、「北」の民主化、正常化、核放棄への一番の早道ではあるまいか。もちろん中露両国は、そのような事態の展開の可能性には警戒心を強めるだろうが、欧米民主主義諸国、関係国際機関、NGOの連携を模索する段階に至っている。
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