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2013-01-10 06:54
“劇薬”アベノミクスの壮大なる賭け
杉浦 正章
政治評論家
3年半ぶりに開かれた経済財政諮問会議を機に、アベノミクスが本格的なスタートを切った。日本経済はデフレ脱却を目指した“最終決戦”に突入する。タブーの国債増発をあえて断行して財政出動に踏み切り、即効性のある公共事業と金融緩和で景気の底上げを図る。世界の経済史上まれに見る大胆な不況脱出戦略であり、欧米諸国は“壮大なる実験”として注目している。成功すれば欧州連合(EU)の不況脱却の“教材”となるという見方も強い。しかし、アベノミクスは大きな“賭け”であり、一挙に奈落へと落ちかねない危険を常に内包していることを見逃してはなるまい。当面の焦点は、現在のアベノミクス・バブルが7月21日の参院選まで継続できるかどうかだが、筆者は実体の伴わない期待値ながらプチバブル的な活況は継続するとみる。アベノミクスは現在のところ口先先行であり、常にバブル性を内包するが、巧妙なる“仕掛け”があるからだ。緊急経済対策は総額20兆円に達し、補正予算案は事業費ベースで13兆円を越える予定だ。その多くが公共事業に回される。公共事業は景気に即効性があり、目先の景気の底上げには最大のカンフル注射に成り得る。加えて、金融緩和が追い打ちをかける。消費増税の判断となる4月~6月の「国内総生産(GDP)速報値」はまず上がるだろう、とする見方が濃厚である。
これが有権者の給料に跳ね返るかどうかだが、公共事業の土木建設業などにはすぐに反映するが、一般企業の場合はまず間に合わない。官邸筋によると「ボーナスには少なくとも反映するよう経団連に手を回す」という“作戦”も考えられているようだ。問題は、日銀がおとなしく安倍の掲げる経済成長率2%の目標に応ずるかどうかだ。1月9日の諮問会議では、安倍が日銀総裁・白川方明に対して「10年以上デフレが続き、相当なことをしないとマインドが変えられない。日銀総裁とこの場で議論することは極めて重要だ」と厳しくけん制して、2%のターゲット実施を迫った。出席閣僚らからも日銀に対する“圧力”発言が相次ぎ、さながら日銀を金融緩和でねじ伏せるような会議であったようだ。かつて日銀総裁・速水優が首相・森喜朗による同様の圧力に「金融政策は日銀が決める」と突っぱねた話は有名だが、白川は小粒で、とても抵抗し切れまい。しかも市場が好感して円安・株高の動きが定着しつつある中で、日銀がこれに水を差すことはまずできないだろう。日銀の独立性が脅かされるという議論があるが、それどころか安倍政権は“確信犯”的に独立性を侵犯しているのであり、応じなければ法改正も辞さない構えだ。従って白川は、21~22日の日銀金融政策決定会合で、物価上昇の目標を「2%」に設定して、金融緩和を強めることを決めざるを得ないこととなろう。
こうして安倍政権は最初の関門をクリアしつつあり、11日には緊急経済対策、15日には補正予算案の閣議決定、2月には補正の成立、4月には新日銀総裁人事の決定、5月には来年度予算の成立、6月には骨太の方針と成長戦略を決定して、参院選へとなだれ込んでいくことになる。国会は厳しい運営が待っているが、景気回復策は水戸黄門の“印籠”の役を果たして、野党もこれに水を差すような抵抗はしにくいとみられる。とりわけ2線級の党首・海江田万里でスタートした民主党は、総選挙大敗北の“脳しんとう”からなかなか立ち直ることは困難だ。従って、冒頭述べたように、参院選までは「最初のうまさが持続する」可能性が強く、安倍の「最大の選挙対策は景気対策」とする戦略は参院選でも奏功する可能性がある。しかし、問題は中長期の展望だ。まず第1にとどまるところを知らぬ国債発行だ。自民党は野党時代に民主党の44兆円の上限を口を極めて批判してきた。それを臆面もなく飛び越えて、50兆円にまでする構えだ。副総理・麻生太郎はいけしゃあしゃあと「44兆円越え」を明言しているが、「後世の世代にツケを回すな」と追求してきた過去はほおかむりだ。1000兆円の借金がどこまで拡大するのか、そら恐ろしいものがあるのである。
日銀を財布代わりにして、ツケをどんどん次世代に回わし、公共事業を大盤振る舞いすれば、借金はふくらみ、将来の再増税につながる。安倍は来年春の消費税引き上げが先延ばしになることもあり得るとしているが、まずこれは不可能だとみる。なぜ公共事業復活に全力を傾注するかと言えば、消費税の前提の「GDP速報値アップ」に狙いをつけているのであり、垂涎の財源を手放すことはあり得ないのだ。おまけに今年後半は消費増税への駆け込み需要が期待される。みすみす掌中の玉は手放さないのだ。しかし、アベノミクスは明らかに“劇薬”であり、失敗すれば制御不能の円の暴落、長期金利の暴騰を招き、日本経済はたたきのめされる。もちろんそうなれば安倍政権は、跡形もなく吹き飛ぶ。首相が大ばくちに出た日本丸の行方は全く未知数である。
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