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2013-04-24 07:01
安倍の外交強気シフトは当然だ
杉浦 正章
政治評論家
痺れを切らしたかのように首相・安倍晋三が強気の外交路線にかじを切った。参院選に向けて封印してきた“右傾化タブー”を次々と、前面に出し始めた。背景には中国国家主席・習近平の“尖閣活用統治戦略”が当分変わることはないと読み切ったことにある。確かに戦後70年近く憲法の不戦の誓いを忠実に守ってきた平和国家日本に、周辺国との戦争、紛争を続けて来た中国が歴史認識で批判を繰り返し、日本の援助で経済発展を遂げた韓国が“恨みの外交”を前面に出そうとするのは、もういいかげんにしたほうがよい。靖国参拝が財務相・麻生太郎の独断であるかのような批判があるが、そうではない。政府、自民党筋の情報を総合すれば、明らかに安倍路線に沿って政権内部で練りに練った参拝だ。幹事長・石破茂が初めて明らかにした「中国は首相、外相、官房長官の参拝だけはいけないということだと承知している」という新見解も、政府与党間で密接な調整が行われた結果であることを意味している。4月23日の史上最多の国会議員による靖国参拝も、その一環である。ジャーナリストの中には、麻生を「外交音痴としか言いようがない」(後藤謙次)と批判する声があるが、浅薄だ。中韓両国の反発も織り込み済みなのである。
一方靖国参拝こそしなかったが、ここに来て安倍は躊躇することもなく外交を強気にシフトし始めた。植民地支配へのおわびと反省の村山談話をそのまま継承しないことを明らかにしたかと思うと、中国への封じ込め路線を進め、10日には台湾との間で漁業協定を締結、日台関係を大きく好転させた。中国に痛烈なる打撃を与えたことは言うまでもない。23日には国会答弁で「尖閣諸島と海域を安定的に維持管理するための具体的な方策として、公務員の駐在や船だまりの建設などの様々な選択肢は常に頭の中にある」とまで言い切った。これは参院選挙までは安全運転とする当初路線を大きく変更したことを意味する。その原因の第一は、習近平の外交路線が、対日強硬方針に貫かれつつあると判断したことが挙げられる。例えば2年ぶりの中国の国防白書は、臆面もなく「海洋強国」を目指す方針を打ち出し、尖閣を巡る日本の立場を名指しで非難した。この国防白書に基づくかのように、尖閣における領海侵犯はますます頻繁になり、23日には過去最多の8隻もの海洋監視船で“尖閣参拝”を繰り返した。おりから米統合参謀本部議長・デンプシーが習近平と会談している最中であり、日米同盟を試すかのような狡猾な動きに出ているのだ。習近平に取ってみれば、尖閣問題の発生は自らの国内基盤を固めるための願ってもない好機であり、これを“活用”することで国内に充満する不満のはけ口としているのだ。
安倍はこうした習近平の姿勢を読み切ったのだろう。官邸筋は「もう民主党政権のようなおどおどした外交はしない。毅然とした姿勢を貫く」と漏らしている。安倍に強気の外交姿勢をもたらしたものは国内の空気もある。稚拙な民主党外交は尖閣問題、李明博の竹島上陸など、周辺諸国に「甘く見られる」結果を招き、国民の不満はうっ積した。それが安倍の筋を通す外交姿勢によって、支持率も上昇、これが安倍の自信となって現れているのだ。尖閣、竹島、北方領土は、日本になかった「ごく普通のナショナリズム」を喚起したのだ。これが議員心理にも跳ね返り、かってない数の靖国参拝となって現れた。
これに対して日本のマスコミは、相も変わらぬ自虐史観を根底におき、靖国参拝の批判を繰り返している。どうしたことか読売までが、社説で麻生の参拝を「より慎重であるべきだった」と批判している。読売の信頼すべき論説が一瞬朝日の社説かと思った。その朝日にいたっては2日間にわたり社説で参拝を批判している。中国も、韓国も、この日本の世論を“利用”して、日本の政権に揺さぶりをかけるという、戦後一貫したパターンの繰り返しだ。朝日は北のミサイル挑発を前にして日中韓が結束して事に当たるべき時に、靖国で事を荒立てるのは方向が逆であると強調している。テレビのコメンテーターたちもこれを真似した“論調”だ。しかし日中韓が北への外交で結束できたことなど一度もない。北の攻撃を一番懸念すべきは韓国であり、外相が訪日を延期するなどという子供じみた対応をして、いまそこにある国益につながるのか。大統領・朴槿恵も訪日よりも訪中を優先するという説があるが、外交は女の恋の駆け引きではない。韓国新政権は冷厳に自分の置かれた立場を見極めるべきだ。弱小国韓国が万一朝鮮戦争になれば頼りになるのは米国と日本だけしかない現実を知るべきだ。安倍はこれまで歴代政権が躊躇(ちゅうちょ)していた、強気の外交に出たが、アベノミクスと同じで、国民に“やる気”をもたらす効果を生む。内政も外交もいいところを突いている。
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