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2013-06-10 06:12
米中首脳会談は同床異夢の色彩濃厚
杉浦 正章
政治評論家
今回の米中首脳会談の意味を、今後10年で米国を越える超大国になるかも知れない中国と、これを何とか押さえ込んでナンバーワンの地位を維持したい米国との葛藤ととらえれば、すべては片づく。そして大統領・オバマは米国の世界戦略維持にとって日本が不可欠の存在であることを再認識するに至ったに違いない。日米軍事同盟なしに米国単独で中国の台頭を押さえ込むことができないことは明白であり、逆に日米同盟さえ維持すれば、ナンバーワンの地位を維持できるのだ。いくら日本を余り好きでないオバマでもその辺は理解したであろう。激突のコースをたどるかも知れない2超大国の未来史の展望のなかで、首脳会談はひとときの緊張緩和だけをもたらす、同床異夢の性格を帯びるものであった。既存の超大国が新興の超大国に取って代わろうとされた場合、歴史においては十中八九戦争による決着しかない。しかし、現在は核兵器のブレーキがこの方式による解決を常に否定する。その台頭した中国の国家主席・習近平が何を言うかを世界中が固唾をのんで見守る中で、会談は8時間にわたって行われた。習の基本的ポジションは就任以来明白である。つまり「中華民族の偉大なる復興」である。全人代後の内外記者会見で、周は「中華民族を世界諸民族の中でさらに強力な存在として自立させる」と述べたのだ。これはまさに中国の王朝、殷・周・秦・漢・隋・唐・宋・元・明・清の多数がそうであった中華帝国の復活を夢見ていることに他ならないのである。
会談で習近平は、意識的に日本など眼中にないような発言姿勢を維持した。その核心部分が「太平洋には米中を受け入れる十分な空間がある」と述べた点だ。まさに尖閣列島を含めた東シナ海も南シナ海も中国の海域であると言わんとしているのだ。沖縄ー尖閣ー台湾ーフィリピンと続く第一列島線を突破して太平洋深く進出するという戦略をいみじくも口にしたのだ。尖閣諸島については「国家の主権と領土を断固として守る」と言い切った。あきらかに尖閣を最大限に活用した民族統合戦略である。日本の存在などは無視して、中国と米国で太平洋を2分割しようと日米関係にくさびを打った側面もある。これに対してオバマは、尖閣問題で「日中両国は話し合いによって両国の緊張を和らげるべきだ」と主張しつつも「アメリカは、主権に関わる問題については、いかなる立場もとらない」と述べた。これは「主権に介入しないが、安保条約の義務は履行せざるをえず、そのような事態を招いてくれるな」と懇望をした形であろう。さらに「中国の平和的な台頭を歓迎する。平和的な台頭は中国が世界の問題に対等な立場で取り組むことにつながる」と述べた。「平和的な台頭」とは何かを端的に言えば、南沙諸島、尖閣諸島での海洋膨張主義をやめるべきだ、人権を抑圧して国内を押さえるような政策をとるべきでない、の2点に尽きるだろう。「平和的な台頭」を軸に、米中の経済関係を強化して、ウインウインの関係を樹立しようということにもつながる。
要するに、簡単に言えば、習近平は「中国は大国である。米国はその利益を認めよ」であり、オバマは「国際秩序を破壊するような台頭は許さない」というところであろう。これは言いっ放しで、方向は出ていない。また焦点の中国の軍部によるサイバー攻撃の問題についても、「オバマは何も出来ない」という国内の批判を受けて、言及したが、習は「サイバーセキュリティーに関する報道の急増に留意する。中国からの脅威との印象を人々に与えているかもしれない」とまるで報道を誤報と主張。加えて、「中国も被害国だ」と開き直った。これを庶民レベルに翻訳すると「盗人猛々しい」ということになるが、オバマおよび米国民はカチンときたに違いない。一連のやりとりから浮かび上がるところは、習近平のしたたかさであり、容易に米国の圧力には屈しない姿勢である。会談は6対4で習近平ペースで展開したように見える。個人的な力量の差が出た感じが濃厚だ。習は尖閣などでオバマが戦争突入を極端に嫌っていることを見透かしているのだ。こうして超ヘビー級ボクシングはジャブの応酬で、習の優勢勝ちで終わったが、中国の異質な軍国主義膨張路線と、それを改める気持ちなどさらさらないことが鮮明になった。これに手をこまねく米国の姿が浮かび上がった。しかし、かねてから指摘しているように、首脳会談はすること自体に意義がある。全体的に見て極東の緊張が一時的であるにせよ緩和することへの一助にはなった。
会談結果を見て浅薄な政治家には、ニクソンが行った日本頭越しの米中接近を予想する向きがある。しかし、まず頭越しはあり得ないと思う。なぜなら、米ソ冷戦時代の世界情勢の中での中国との関係改善は、ニクソンにとって致命的な重要性を帯びるものであったからだ。翻って、現在台頭する中国に、日本無視の接近をした場合、米国の立場はどうなるかだ。日本の離反を招いたら米極東戦略そのものが成り立つまい。GDP1位と3位が手を握ってやっと中国の覇権主義に水を差すことが可能になるのだ。首相・安倍晋三が6月9日、「日米関係は同盟関係であり、第7艦隊の拠点が日本にあるからこそ米国はアジアでのプレゼンスを守ることができる。米国が上海に基地を移すことはあり得ない」と述べたのは、紛れもなく米国への強いけん制である。日米同盟は、現在のところ世界最強の軍事同盟であり、この基本構図をオバマが無視できるはずがない。一方、習近平は在任10年間に米国を追い抜いてトップの超大国に躍り出る意気込みだが、ことはそう簡単には進まない。既に国内は紛争やテロで満ちている。国民の不満は充満しており、共産党1党独裁の矛盾は拡大している。これが習近平体制の維持を常に揺るがせ続けるだろう。任期中に独裁政権崩壊がないとは言えまい。これが最大かつ唯一の躍進阻害要因だ。
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